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鴨台会報・ホームページ連載企画「My Way -私の歩んできた道-」・・・2014年度第1回 伊藤 淑子先生 『研究の道へ』 が掲載されました

鴨台会報NO.96のホームページ連載企画 第一回伊藤先生写真

「My Way -私の歩んできた道-」

 

(文学部 伊藤 淑子 教授)の続編が今月から連載(6回)スタートしました。

 

今回は続編 第1回 『研究の道へ』 です。

 

同窓会誌「鴨台会報」では、高校時代、大学時代を中心にお話をうかがいました。当初は数学科や医学部志望で、英文科は軽い気持ちで受験したとのこと。理系女子の高校時代から一変、大学では英語の勉強に没頭したそうです。偶然の選択の結果、今があると振り返る先生。そして大学院に進み、アメリカ文学、ジェンダーと知的好奇心の対象が広がっていきます。

 

●アメリカの文化的アイデンティティの成り立ちを探る

 

 大学院では、ナサニエル・ホーソーン(Nathaniel Hawthorne 1804?1864)というアメリカの作家について研究、修士論文はナサニエル・ホーソーンが描く「罪・悪意」をテーマに執筆しました。関心があったのは、独立後の19世紀において、アメリカの文化的なアイデンティティがどのように形成されていくのかというプロセス、その過程でどのようなことが起こったかということです。この時は、とくにジェンダーという視点から論考したわけではありませんでした。

 

 

第一回伊藤先生写真2

大学院時代の伊藤先生と恩師の先生方

 

 

●ジェンダーへの興味

 

 女性の問題は、日本においては、マスコミ等に面白おかしく取り上げられることが多く、まだアカデミアのなかのことばになっていなかったのです。でも80年代なかばから学問的に女性のことが論じられるようになって、社会学分野を中心に先駆的な女性論が注目されるようになってきました。

アメリカでは60年代に第二波フェミニズムが起こり、女性の社会進出も急速に進みます。大学生の頃、アメリカ研究の授業で、アメリカの女性解放運動家ベティ・フリーダンThe Feminine Mystique(邦題『新しい女性の創造』)を読みました。その頃から女性のことについて学問的に勉強したいとい思うようになりました。しかしそれは、社会の動きとして、あるいはアメリカ文化の流れとして自分の勉強や生き方の参考にしたいと思う程度で、文学をジェンダー批評することを考えたわけではなかったのです。それくらい学問の世界の空気は保守的でした。

 このThe Feminine Mystiqueが世に出たのが1963年。そして女性や家族の問題を描いた映画『クレーマー、クレーマーの公開が1979年。フェミニズムは実に15年以上をかけて人びとに広くに受け入れられるようになったのだといえます。『クレーマー、クレーマー』はけっして家庭よりもキャリアを選ぶ女性を好意的に描いた映画ではありませんが、それでもようやくフェミニズムの視点が世の中に受容される時代となったといえるのではないかと思います。学問としても一つの分野として認められるようになり、大学院から教育・研究者の道を歩むなかで、私も、周囲の研究仲間も、この問題に関心を深めていくようになりました。

 

●先生が考えるジェンダー研究とは

 

 「女性は数学に向かない」という中学時代の男性教員の言葉で私が奮起したこと、そして女性でも活躍できる道を模索し、教員・研究者をめざしたことはすでにお話ししました。

 私は母を敬愛しています。依存もしていたので、母を失ってからは1年半ばかり、抑鬱的な気持ちを引きずっていました。けれども10代のころは、母に対する思いは愛着と否定のあいだで屈折していました。母の存在は私のジレンマの元でした。大好きな母なのに、母のように専業主婦として生きたくはなかったのです。市川房江の自伝に、「すべては母から始まった」というようなことが書かれていたことを覚えていますが、私のフェミニズムも母から始まったといえます。ジェンダーへの関心は、学問というより、自分の生き方探しの中で必然的に出てくるものであったと、あらためて思います。それをいま研究テーマとすることができるのも、時代の進展のおかげです。フェミニズムは「個人的なことは政治的なこと」という発見をしますが、自分の生きてきた道筋のなかで直面せざるをえなかったことを研究することができるのはとても幸せなことです。

 

次回は、今でも研究のベースであるとおっしゃる「アメリカ文学女性像研究会」についてお話しいただきます。

 

 

① 女性参政権をめぐる女性運動を第一波フェミニズムと呼び、社会進出や

 自己実現など、女性の自立した生き方を求める20世紀後半の運動を第二は

 フェミニズムと呼びます。

 

② アメリカのウーマン・リブ運動指導者。女性も家庭の外にみずからの生きがいを

 見いだすべきだと説き、中産階級の女性の共感を呼び,女性解放への関心を高めた。

 

③ 『クレーマー、クレーマー』 1979年公開のアメリカ映画。アヴェリー・コーマンの

 小説を原作としてロバート・ベントンが監督と脚本を担当した。

 主演はダスティン・ホフマンとメリル・ストリープ。

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