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複眼的視座―実践としての映画批評 ゲスト:石神郁馬氏

みなさんこんにちは、コンシェルジュの岩下です。

1/16(木)は、松野智章先生によるラーニングコモンズレファレンス~授業の合間に受けるプチ・レクチャー~が開催されました。

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▲「多様な意見や見解を楽しめるのは贅沢なこと」
この言葉の真意とは?!

テーマは「複眼的視座」。複眼的視座とは、分かりやすく言えば「いろいろな立場から物事を見たり考えたりするさま」のことです。今回は、松野先生のご指導のもとで「映画批評」を通じて複眼的視座の養い方を体験します。

題材とする映画は『西部戦線異状なし』(1930・アメリカ)です。物語は、ドイツ人青年が志願兵として第一次世界大戦に従事するところから始まります。

参加者たちはこの映画をダイジェストで観た後に実践的な映画批評を行います。とはいえ、彼らはこれまでに戦争映画とも批評とも縁のなかった学生ばかりです。松野先生による説明を聞いた参加者たちは、心なしか不安そうな表情を浮かべているようにも見えました。

そこで、強力な助っ人の登場です。今回のゲスト、軍事研究家の石神郁馬(いしがみ いくま)氏です。石神氏には、軍事研究家としてのお立場から、参加者たちの映画批評を手助けしていただきます。

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▲左:松野先生 右:軍事研究家の石神郁馬氏
石神氏は、星川啓慈先生の著書でも軍事アドバイスをされています。

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▲まずは全員で映画鑑賞。

ところでみなさんは「感想」と「批評」の違いはどこにあると思いますか?改めて問われると難しいですよね。それでは、松野先生にうかがってみましょう。

松野先生「感想とは、思ったこと。批評とは、批判することです。ここで言う批判とは、文句をつけることではありません。批判とは、物事を検証すること、自分なりに客観的視点を確立してこの作品を位置付けることです」。

まず、松野先生は『西部戦線異状なし』のダイジェストを観終わった全員に、次のような質問を投げかけました。「今の映画の中にはどんなシーンがありましたか?できるだけ具体的に教えてください」。

参加者たちは、順番に自分が覚えているシーンを挙げていきます。

  • 主人公たちがネズミを叩いていた
  • 兵士が持っている革のブーツがカッコよかった
  • 仲間が死んだ
  • 天井が崩れてきた
  • 主人公の部屋に蝶の標本が飾ってあった
    などなど・・・・・・

おおまかなストーリーを紹介するのと違って、具体的なシーンを思い出すのは意外と骨の折れる仕事です。「具体的に」というのが曲者で、あるものについて思い浮かべると、すでに細部の色や形があやふやになっていることに気付かされます。そして何よりも、自分以外の参加者が、自分がまったく気にも留めなかったところに着目してることに驚かされます。

これこそが、今回の主題である「複眼的視座」を知るための重要なヒントになります。繰り返しますが、複眼的視座とは、「いろいろな立場から物事を見たり考えたりするさま」のことです。今回は、参加者がそれぞれに異なるシーンに注目していたことから、参加者たちは疑似的に複眼的視座を体験することができました。

次に松野先生はこんな話をしてくださいました。「物事を批評するにあたって、批評する対象に関する知識がある状態と知識がない状態では、作品そのものの捉え方が変わります」。

松野先生の話を受けて、ゲストの石神氏はこんなお話を聞かせてくださいました。

「映画に登場する兵士の服装が迷彩柄などではないことに気が付きましたか?実際に、南北戦争以前は兵士の服装は総じて派手でした。自軍の司令官が兵士を見つけやすいように、ということで敢えてそうしていたのです。この作品の舞台は第一次世界大戦です。まだ騎士道精神を引きずっていたというところもあるのでしょうね」

石神氏の場合は「軍事の歴史」という軸を持っているので、作中の兵士の服装が「演出」ではなく、「史実に沿っている」ことを断じることができるのですね。

続いて、参加者たちも自分の知識を導入してこの映画を評論します。

ある学生さんは「キャラクター論」という観点からこの映画を論じてくれました。いわゆる「死亡フラグ(キャラクターが死ぬことの伏線)」から論じる『西部戦線異状なし』です。

それからまたある学生さんは「価値観の変化」という観点からこの映画を論じてくれました。戦場ではお金や死体の持つ価値が一変する、という視点から論じる『西部戦線異状なし』です。

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▲いざ、批評に挑戦!

物事を批評するにあたっては、まずは客観的視点を確立すること、そこに知識を加え、自分なりに批評対象を位置づけをする姿勢が求められます。これは映画批評だけではなく、あらゆる批評に活かせる技術です。

忘れてはならないのは、客観性を保ちながら物事を相対化するには複眼的視座が有効だということ。そして、複眼的視座を持つには客観性を保ちながら物事を相対化する作業が有効だということです。両者は補完し合う関係なのですね。

レファレンスの最後に、松野先生は参加者に向けてこんな話をしてくださいました。「批評そのものに対して、正しい・正しくないという考え方はありません。みなさんには、『違った見方をすると面白い』ということを知っていただきたいのです。生きることは対話をすることです。複眼的な視座を手に入れて、豊かな人生を過ごしてください」。

松野先生による今学期のラーニングコモンズレファレンスはこれにて終了となります。

松野先生、毎回濃く、楽しいお話を聞かせてくださってどうもありがとうございました。豊富な話題と巧みな話術に魅せられて、すっかり松野先生のファンになった学生さんも多いようですね。

現時点では来学期の松野先生によるラーニングコモンズレファレンスの詳細は未定ですが、ぜひとも継続していきたいと思っています。ファンのみなさんは楽しみにお待ちください。詳細が決定次第、このブログでもご案内いたします。

それでは、また ヾ(*’▽’*)o

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