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綜合仏教研究所

【開催御礼】特別講座「『業と輪廻』理論の背景ーヴェーダから仏教へ—」

綜合仏教研究所では、後藤敏文先生をお迎えし、全5回の特別講座を開催いたしました。

 以下、平林 二郎 研究員の報告レポートです。

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 後藤先生のご講義では,ヴェーダ文献,ブラーフマナ文献,ウパニシャッド文献に見られる業(kármaṇ-)と輪廻(saṃsāra-)と,ヴェーダ時代の世界観について解説をしていただき,それを踏まえ,業と輪廻の理論と仏教の教理がどのように関係しているかをお教えいただきました.

 日本人であれば誰しも因果応報という言葉を耳にしたことがあり,多くの人がこの考えの下に仏教の善因善果・悪因悪果という考えがあると知っているのではないかと思います.しかしながら,この考えの淵源は仏教よりも古く,ヴェーダや,ブラーフマナに依るものでした.
 後藤先生は業について『ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド』の「ヤージュニャヴァルキヤ篇」III 2, 13に「良い(púṇya-)者と,ひとは良い行為によってなる.悪い(pā́pa-)者と,悪い行為によって」とあることを紹介してくださり,また,IV 4には,地上における善悪の行為の結果・効力などが天界に蓄積し,死後にそれと合体するという観念があることを解説してくださいました.
 また,後藤先生は,仏教以前は死後天界に生まれ変わり,生前に自分の為した祭式と布施の効力の蓄えによってそこに暮らし,蓄えが尽きると地上に降下するというように,人間の本拠地は天界にあり「天界—地上—天界」の一巡が考えられていたのに対し,仏教成立時は「地上—天界—地上」の一巡が問題となり,輪廻という術語が成立したと推定していることをお教えくださいました.
 そして,後藤先生は輪廻から解脱する方法について,祭式によって獲得される天界での不死(ブラフマン世界へ帰入)から,アートマンと宇宙の究極原理ブラフマンとの合一(梵我一如),またはそれを真に知ることへと展開したことをお教えくださり,仏教は輪廻という苦からの解放を探求し,輪廻主体の完全消滅である涅槃への道を見出し,不死の門を開いたとお教えくださいました.
 この他,天界での寿命が尽きる際に現れる五つの兆候(天人五衰)は,ヴェーダ文献には見られず,仏教文献であるイティヴッタカ(76: § 83)に保存されている.このような例もあり仏教文献からもヴェーダの世界観を研究する必要があるとの提言を後藤先生よりいただきました.

 仏教では生・老・病・死を人生の苦悩の原因であると考えます.たしかに,老・病・死は苦悩の原因だとわかるのですが,なぜ,生(生まれること)がそこに含まれているのかについては疑問が残っていました.後藤先生のご講義の,ヴェーダの世界観を踏まえた輪廻の中での生(jāti),再生を苦とみなすという内容は大変わかり易く,また,興味深いものでした.仏教を研究していると研究対象は仏典だけとなってしまう傾向が強いのですが,ヴェーダの世界観と仏教の関係を詳細に考察すればより多くの問題を解決できる可能性があるということがわかりました.

 ヴェーダ文献,ブラーフマナ文献,ウパニシャッド文献,仏典,日本の古典などを幅広く扱い,各文献を正確に読み,それらの内容を詳細に考察していく後藤先生の研究姿勢は,我々綜合佛教研究所研究員・研究生にとって指針・参考とすべきものとなりました.

 貴重な講演を賜り,また,講演の後もさまざまな質問にお答えいただいた後藤先生に厚く御礼申し上げます.


 

  

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ご来場いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。

綜合仏教研究所では、今後も研究の第一線で活躍されている先生方を講師としてお呼びする予定です。予約不要・参加費無料ですので、皆様ぜひ、ふるってご参加ください。

綜合仏教研究所事務局