図書館・研究所

知と情報の集約

綜合仏教研究所

【開催御礼】特別講座「華厳思想と現代」

綜合仏教研究所では、木村 清孝 先生をお迎えし、全5回の特別講座を開催いたしました。

 以下、伊久間 洋光 研究員の報告レポートです。

***********************************************

総合仏教研究所では東京大学名誉教授の木村清孝先生を講師としてお招きし、全5回の特別公開講座を開講いたしました。講座のテーマは「華厳思想と現代」です。

 『華厳経』は東アジアに大きな影響を与えた大乗経典です。『華厳経』を所依の経典とした華厳宗は、初唐代に壮大な華厳経学を形成しました。華厳宗は現在の日本では小さな宗派ですが、実際には『華厳経』と華厳経学は日本仏教の諸宗派の思想形成に大きな影響を与えました。

 先生はまず、『華厳経』、正しくは『大方広仏華厳経』に①東晋・ブッダバドラ訳の『六十華厳』、②唐・シクシャーナンダ訳『八十華厳』、③唐・プラジュニャー訳『四十華厳』、④チベット・ジナミトラ訳の『蔵訳華厳』の4本があることを示されました。そしてそのうち、③の『四十華厳』は、他の『華厳経』の一部であり元来は単独の経典であった『入法界品』を大幅に増広させたものであること、その他の諸本は①から②、④の順に増広が進んだことを示され、三本の対照表を提示されました。また近年の研究(堀伸一郎氏による)により、それら『華厳経』の原本が西域において確かに存在していたことが実証されたことを紹介されました。

 中国における『華厳経』の研究は、まず『十地経論』の思想の解明に力を注いだ、北方の地論学派によって進められました。しかしながら、先生は、『華厳経』が地論学派のみに留まらず天台大師智顗や三論教学を大成した吉蔵の思想に大きな影響を与えたことを示されました。また華厳宗は初祖を杜順、二祖を智儼、三祖を法蔵、四祖を澄観、五祖を宗密としています。先生は彼ら祖師たちの教学がただ一つの体系に留まるものではなく、担い手によって時代に対応した変化をしていることを示され、それぞれの思想を紹介されました。

 『華厳経』は、ことに韓国仏教に大変大きな影響を与えています。先生は、日本の華厳宗の明恵上人により作られた国宝『華厳縁起絵巻』(華厳宗祖師絵伝)において取り上げられている祖師が、韓国・新羅の義相と元暁の二人だけであることを示されました。さらに同絵巻に基づき、唐に留学して智儼のもとで十年間学んだ元暁と、還俗・結婚し村々を回って布教した義相という二人の祖師の対照的な生を活き活きと紹介されました。

本講座の最後に、先生は『華厳経』の中心的な思想である「一即多」の教えを徹底させた、我々一人一人の行動が限りなく多くの人々・物事により支えられ、それらとつながって初めて成り立つという見方を、現代社会に提案する必要性を示されました。そしてそれに基づき、所謂「共生」という語から一歩進めた「共成」(共に成る)という考え方を提案されました。

本講座を通し、文献伝承者(祖師・経典編纂者)への意識・現代社会への視点という、文献学研究者にとって重要な視座を学ばせて頂くことができました。

ご多忙のところ貴重なご講義を頂戴した木村先生に改めて感謝申し上げます。

 

 

***********************************************

ご来場いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。

綜合仏教研究所では、今後も研究の第一線で活躍されている先生方を講師としてお呼びする予定です。予約不要・参加費無料ですので、皆様ぜひ、ふるってご参加ください。

綜合仏教研究所事務局

GO TOP