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「学び」と「実践」を通じた人材育成

国際文化コース

「カルスタ進歩ジウム」通信④

授業期間が終了し、2月の一般入試が終わると、キャンパスは静かなたたずまいになります。そのなかで、自分の研究テーマを完成させるために図書館や学科閲覧室で勉学にいそしむ学生たちの姿、クラブ活動にはげむ学生たちの声は、大学本来の機能の一面を映し出しています。大勢の学生でにぎわうキャンパスも活気あふれるものですが、落ち着いた空気を漂わせる春休みの大学も、また心地よいものです。

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「カルスタ進歩ジウム」の開催から10日ほどたちました。プログラムのなかから、印象的だった発表を紹介したいと思います。

午前中の発表のなかから、「『ハウルの動く城』が語る戦争の無意味さ」。010.JPG

ジブリ映画『ハウルの動く城』とDiana Wynne Jonesの原作を対比させたうえで、ジブリ作品が効果的に反戦メッセージを組み込んでいることを丁寧に分析しました。その根拠にしたのは、映画の二つの場面です。

一つは戦闘機が飛来したとき、ソフィーがハウルに「あの戦闘機は味方かしら、敵かしら」と問う場面。そのときハウルは「敵か味方かなど意味のないことだ」と答えます。この場面は敵味方に分かれて戦う両者がかかげる大義名分の虚偽性を鮮明に浮かびあがらせます。誰が何のために戦っているのだと主張したところで、戦争が始まってしまえば理性の働かない殺戮が繰り返されるだけ。味方の正義も敵の正義もその正当性は失われ、ただ戦うという動機のみが存在する、ハウルの一言を通じて映画はそう主張するのだ、と発表者は分析します。

戦争.jpgのサムネール画像もう一つは、サリマンの「それでは戦争をやめましょう」の一言で戦争が終結する場面。為政者あるいは為政者に強い影響力を持つ者の思惑で戦争が始まり戦争が終わることの理不尽さを、このジブリ作品は間接的ではあるけれども鮮明に描き出している、という分析です。平和が取り戻されるのだから、ここはめでたしめでたし、となるところですが、あまりにもあっさりと放たれるこのセリフの効果によって、戦争の無意味さが皮肉をこめて描き出されます。

そしてこの映画が2004年に、日本で制作されたことの意味を発表者は問いました。2003年にアメリカはイギリスとともに、大量破壊兵器の査察に協力しないという理由でイラクへの攻撃を始めます。まもなくフセイン政権は倒され、2004年には英米の占領からイラクに主権が返されますが、治安は回復されず、混沌とした状態が続きます。日本からも自衛隊がイラクの復興のために派遣されました。『ハウルの動く城』はこの時期に、あからさまな「反戦」を謳うことなく、静かに「戦争の大義名分」の無意味さを訴えた、ということができます。

アメリカでは、そしてイラク戦争に協力したイギリスでは、けっして制作され得なかった映画といえます。結局イラクで大量破壊兵器は見つかりませんでした。アメリカの訴えた「イラクを自由にする」作戦は、イラクを結果的に混迷させました。太平洋戦争後の日本占領の「成功」がたびたびアメリカのメディアで引き合いに出されましたが、その短絡的な結びつけにとまどいを覚えた日本の人びとも多かったと思います。

原作のHowl's Moving Castleは、イギリスの児童文学の伝統を受け継ぐファンタジー作品です。ハリー・ポッターでファンタジーの大ブームが起こる前に書かれた作品ですが、この作品も少年少女の成長と魔法をからみあわせています。この作品で注目したいのは、ソフィーがたどる精神的な変化です。「3匹のこぶた」もそうですが、たいていのお伽話では年長の子どもは大失敗をして、末っ子が大成功します。ソフィーも3人姉妹の長女、それならば末っ子の妹の支援にまわろう、と健気に思う年頃の娘です。この控え目なソフィーが、自分の秘められた力に気づき、積極的に生きることを学びます。そのためにソフィーが老婆にならななければならなかったことも重要です。「少女」であることは「愛らしい容姿」と「素直で控え目な態度」を意味します。「おばあさん」になってはじめて、思ったことを遠慮なく口にすることができるようになるのです。

原作のおもしろさは、大胆で有能な「おばあさん」に変身することによって、ソフィーが、いわば「女子力」を自分のなかに発見するところにあるのではないでしょうか。原作が書かれた1986年には、欧米に遅れをとりつつも、日本でも男女雇用均等法が施行されました。いまからは考えにくいことかもしれませんが、この法律ができるまで、採用や昇進、待遇に男女差があることは法律違反ではなかったのです。

この少女の成長譚としてのファンタジーを、ジブリは静かな反戦メッセージを込めたアニメとして発信しました。ソフィーの人物表現は、その分、平板になったといわざるを得ません。アニメ映画は原作とは違うことろに主題の軸足を立てたからです。

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ジブリ作品をじっくり読み解き、原作と対比させ、それぞれの時代背景を比較することによって、とても興味深い発表になりました。短い発表時間のなかで、十分に説得力のある論の展開を練り上げることができたか、というと、まだまだ改善が必要であることも事実です。でも、大学に入学して一年の学生の成果であることを思うとき、その努力に裏付けられたセンスに感嘆します。「文化」に対する鋭い感性と批評精神を、これからもいっそう磨いていきましょう。

次回は午後のシンポジウムの発言を紹介します。♪♪♪

 

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