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国際文化コース

伊勢神宮と「サイクル」としての時間――20年ごとの「遷宮」について

はじめに

 

 秋学期も、もうすぐですね! 夏休みはいかがでしたか?

 

 先日、伊勢の皇學館大學に出張になり、時間を見つけて、午前中の1時間ほど伊勢神宮の内宮(ないくう)を散歩してきました。

 歩みをすすめる道の砂利はほどよく濡れており、なかなかいい気持ちでした。普段、これほど木々に囲まれた場所に身をおくことのない私としては、大変にい気持ちになり、寿命も少し延びたような気がします。

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 宗教学者のM・エリアーデに『聖と俗』(法政大学出版局)という名著があります。聖なる時間の流れと俗なる時間の流れ、聖なる空間と俗なる空間という対立項をたてて議論を展開しています。

 

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上の写真は伊勢神宮の入口にある鳥居です。ここをくぐると「俗なる時間・空間」から離れ、「聖なる時間・空間」が始まります。さらに歩みを進めると、「聖なる時間・空間」の密度が増すように感じられます。 

 

  今度は下の写真を見てください。「平成二十五年 第六十二回 式年遷宮御敷地(しきねんせんぐうみしきち)」と書かれていますね。これは何でしょうか?

 伊勢神宮の広報本部のサイトによりますと、神宮には年間に千数百ものお祭りがあります。これらの祭りは、「恒例祭」(こうれいさい)と「臨時祭」(りんじさい)と「遷宮祭」(せんぐうさい)とに分けることができます。
 恒例祭とは、毎年定められた月日に行われるお祭りで、臨時祭とは、皇室・国家に重大事があったとき、臨時に行われるお祭りですが、今回は省略します。

 120909_1002~01.jpg 今回とりあげたい、三番目の遷宮祭とは、公式サイトによりますと、次のようなものです。

 

20年に一度お宮を立て替え御装束・御神宝をも新調して、大御神に新宮へお遷りいただくお祭りです。式年遷宮は神宮最大の重儀で大神嘗祭(おおかんなめさい)ともいわれ、社殿や御神宝類をはじめ一切を新しくして、神嘗祭を完全なかたちでとり行うところに本来の趣旨があります。

 

20年に一度お宮を立て替え御装束・御神宝をも新調」するお祭りは、どのくらい続いていると思いますか? なんと1200年以上も続いているのです! そして、第62回目の遷宮が来年にあるのです。

 

  授業では「時間」の諸相について講義しました。その中で、自然の時間、農業の時間、サイクルという形態をとる時間などについても話しましたね。覚えていますか? 

 日本文化は、いうまでもなく、稲作と強い結び付きがあります。神道も稲作と深い関係にあります。稲作文化は、植物(稲)の植生とかかわりますから、「四季」という「サイクルとしての時間」にそって営まれています。

 この遷宮についても、「サイクルとしての時間」の観点から考えることができるでしょう。すべてを新しくすることにより、国や人々の気持ちも一新され、そこから活力が出てくるということも重要ではないでしょうか。「一年の計は元旦にあり」といわれ、元旦には新たな決意をすることが多いですね。それと共通するところがあると思います。

 

120909_0955~01.jpg しかし、どうして「20年に一度」なのでしょうか? サイクルが「20年」と決まっている現代人の感覚だと、「10年」だと頻繁すぎるし、「50年」ならサイクルが長すぎるように感じるでしょう。「20年」の由来については、皆さんで調べてください。

 いずれにせよ、「20年」というサイクルで遷宮がおこなわれるとすると、それは「日本文化の意味の構造」の中に組み込まれ、その中でわれわれは生活しているのです。

 

内宮を離れる時は「聖なる時間・空間」から離れるわけですが、そうするとやはり、「俗なる時間・空間」に舞い戻ってしまいますね…。

しかし、いつもいつも「聖なる時間・空間」に身をおくと、それが当たり前になって、有難味が失せるかもしれません。われわれ一般人は、適度に2つの異質な時間・空間を行き来するのがいいのではないでしょうか。

 

 私の夏休みでは、この1時間の散歩が最も心に残っています。

 名物「伊勢うどん」も美味しかったです。

 

カルチュラルスタディーズ教授・星川啓慈

 

【参考文献】

(1)伊勢神宮式年遷宮広報本部公式ウェブサイト。

2)M・エリアーデ『聖と俗』法政大学出版局。

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