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国際文化コース

カルチュラルスタディーズコースって何を勉強するの?②

8月も後半に入ると、夏を惜しむ気持ちもわいてきます。海1.jpg

前回、カルチュラルスタディーズコースでは「テーマを選ぶ力」が重要、と言いました。

研究を始める前は、何でもテーマにできるということを、大きなメリットと思う学生も多いのですが、何でもいいということくらい難しいことはないというのは、日常のいろいろな経験から想像できます。バックを買うときも、今日着る洋服を選ぶときも、レストランで料理を注文するときも、これ、と決めるまでに、あれかなこれかなと迷った経験はだれにでもあることでしょう。無限の選択肢があるわけではないのに、です。陳列してあるもの、持っているもの、メニューにあるものから選んでも、迷います。

「テーマを決める力」は、卒業研究のテーマを決める時期、3年生の後半までにつけたい力です。それまでに与えられた課題で練習して、そして小さな選択を重ねて、ときには失敗をして、これはおもしろい研究になる、というセンサーを磨きます。ピン、とくるのは直観、その直観的なひらめきを研究に仕上げていくのは論理を構築する力。

直観を磨くのは、逆説的ですが、経験と知識です。たくさんのことを知ってはじめて、一つの視点にとらわれない柔軟な批判的思考力も培われるのです。

だから、カルチュラルスタディーズコースでは、1,2年生のあいだは、教員から課題を提示して、文化研究の「練習問題」をたくさん経験してもらいます。知識も増やします。何でもできるって言ったのに・・・、好きなことができるって言ったのに、と言わないでください。何でもできる力をつけるための経験です。

どのようなことが研究のテーマになるのか、最初に1年生が経験するのが「基礎ゼミⅠ」です。この授業は所属教員の共同担任制で、複数の教員が数回ずつ、一つのテーマを展開していきます。こんな題材からでも文化を深く分析することができるのか、という驚きを体験してほしいと思い、取り上げるのは、身近なもの、学生が既によく知っていると思っているものです。ときには教員どうしが議論を始めてしまうこともあります。

たとえば、「赤ずきん」。赤ずきん.jpg

おそらく「赤ずきん」のお話を知らずに成長することは不可能、というほど有名な昔話です。なぜ赤ずきんは赤いずきんをかぶっているのでしょう。赤ずきんはなぜ森を通るのでしょう。赤ずきんはなぜひとりでおばあさんのところに行くのでしょう。赤ずきんはなぜオオカミに食べられるのでしょう。食べるということは、どのような意味があるのでしょう。オオカミはなぜ、おばあさんも赤ずきんも食べたのでしょう。ペローはなぜ教訓をつけたのでしょう。グリム兄弟はなぜ猟師を登場させたのでしょう。猟師はどのような存在でしょう。オオカミと森と鉄砲は何を意味しているのでしょう。おおかみ1.jpg

「赤ずきん」は子どもに聞かせる物語ですから、絵本で描かれることが多いのですが、絵の描き方が変わると物語自体の意味も変わってきます。リアリズム、モダニズム、ポストモダニズム、と時代が変化し、さらにポップな表現とアートが融合する時代になって、絵本も「子どものもの」であると同時に、「芸術的なもの」になってきます。子どもの文化にも芸術性が融合し、現代文化におけるアートの意味が拡散しています。

「赤ずきん」で文化研究を体験し、ちょっとだけ、記号とかメトニミーとか、分析方法を学んで、さらに次の題材に移っていきます。

学生のみなさんは「音楽が好き」と言います。ライトニュージッククラブ、ジャズ研究会など、音楽サークルに入って、バンドを組んで演奏を楽しんでいる学生もカルチュラルスタディーズコースにはたくさんいます。

でも、音楽ってなんだろう?と問われたら、ちゃんと答えられるでしょうか。私たちはハ長調のドレミの音階を習い、ピアノを習い、その音にあわせてリコーダーを吹くことを教わっています。小節に区切られて均等割りしたリズムを刻むことにも慣れています。でも音は本来は色と同じように連続するものであるはず、リズムを区切る必然性もないはず・・・。でも私たちは西洋音楽の方法を、あいうえおやアルファベットのように、音楽の基本と認めています。なぜ? 音楽1.jpg

音楽にもイメージがあります。クラシック音楽、現代音楽、ロックンロール、メタル、アニソン、歌謡曲などなど、そのそれぞれがイメージをもっています。音のイメージって、どのように形成させていくのでしょう。

赤ずきんから音楽へ、そしてピカソの一枚の絵、そしてディズニーアニメ『レミーのおいしいレストラン』へと考察の場所を移しながら、やがて自分で研究テーマを見つけられるようになるために、教員の提示する文化研究の筋道をたどります。

つぎは文化研究の方法も交えて、『レミーのおいしいレストラン』、たかがアニメ作品からどのような文化研究が可能になるのか、お話したいと思います。

カルチュラルスタディーズコースは何でも研究テーマにできます。でも、何でも研究にしてしまう力が必要なのです。何でもできる、ということは、何を選んでも成功する、ということではないのです。「基礎ゼミⅠ」は、テーマを見つけるコツ、そのテーマを研究として完成し、文章で、口頭で成果発表することができる力を養うための第一歩です。ひまわり.jpg

伊藤淑子

 

 

 

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