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哲学・宗教文化コース

新元号「令和」によせて

 平成31年4月1日午前11時41分頃、菅内閣官房長官より「平成」に代わる次の元号「令和」が発表されました。2019年5月1日から「令和元年」となります。

安倍首相は、「令和」の出典について『万葉集』巻五「梅花の歌三十二首」の序文にある

  初春令月 気淑風和 ( 初春の令月にして 気 淑(よ)く 風 和(やわら)ぎ )

の「令」と「和」の字であると説明されました。

 この「梅花の歌三十二首」とは、大伴旅人が晩年65歳に正月の宴席にて梅を詠んだ歌とされています。これまでの元号とは違い、国書(日本の書籍)から選ばれた初めての元号となります。
 なお『元号事典』(川口謙二・池田政弘著 東京美術)によると元号は、中国の戦国時代に魏ではじまり、その後、朝鮮、ベトナム、日本で用いられました。しかし、現在では日本のみに残っています。いわば日本独自の文化となっているわけですが、「大化」以来、令和は248番目の元号になります。

 上述したように『万葉集』巻五「梅花の歌三十二首」の序文において、「令」と「和」という字が出てきますが、これは中国六朝時代、西暦502~557年に存在した「梁」の時代に編纂された詩文集『文選』に既にあった、という報道が一部でなされていました。確かに『文選』第15巻、後漢(西暦25~220年)の時代の張衡(ちょうこう)という政治家・天文学者による詩「帰田賦(きでんのふ)」には、

  仲春令月 時和気清 ( 仲春の令月 時 和し 気 清し )

とあります。

 では、「令」という字には、どのような意味があるのでしょうか。日本の外務省は、4月2日に「令和」を「beautiful harmony」と翻訳しました。訳すと「美しい調和」という意味になるかと思います。

「令」という字を辞典で見ていくと、次のような意味があることがわかります。

 白川静が著した『字通』(平凡社 1996)では、

(「令」とは)礼冠をつけて、跪いて神意を聞く人の形。古くは令・命の二義に用いた。・・・金文に「大令(命)」「天令(命)」のように命の字としても用い、西周後期に至って、祝禱の器の形を添えて命の字となる。・・・神意に従うことから令善の意となり、また命令の意から官長の名、また使役の意となる。

とあり、「神意に従うこと」と説明されています。
 また、漢字の語源を解説した藤堂明保著『漢字語源辞典』(學燈社 1965)では、

  令とは澄んで汚れなく、きれいなことである。神々のお告げは汚れなく清い。

ときれいなこと、清いこととあります。

 では、中国ではどうでしょうか。紀元前200年頃に成立したと言われる、中国最古の辞書である『爾雅(じが)』や、中国最古の詩集である『詩経』(箋)には、

  令 善也 ( 令は善なり )

とあります。また前漢(紀元前206年~紀元後8年)の文章家、賈誼(かぎ)の『新書』等齊に、

  天子之言 曰令 ( 天子の言は 曰はく 令なり )

ともあります。
 つまり、このようなことから、「令」とは、「天神の意、きれいなこと、善なるもの」と理解することができ、「帰田賦」の「令月」の「令」の意味は、「きれいなこと、もの」の意味で使われていると考えられます。

 その一方で、中国の歴史文化では、「令」という語は、『論語』学而篇に書かれる

  子曰 巧言令色 鮮矣仁  ( 子 曰はく  巧言令色 鮮(すく)なし仁 )

とあるように「巧言令色、ことば巧みで表情をとりつくろっている人は、かえって仁の心が欠けているものだ」という、あまり良い意味ではない捉え方もあり、中国の文人は、様々に「令」をとらえていたようです。
 外務省が令和を「beautiful harmony」と訳したのは、果たしてどの語義・語源を念頭に置いたものだったのでしょう。

 なお、この「令」という文字。手書きをする場合には、少々問題となります。すなわち、「」と「」の字のどちらを書いたらいいか、という問題です。小学4年生の国語で習うのは、下部分が「マ」の方です。文部科学省において、文化審議会国語文化会漢字小委員会が出した平成28年2月の指針では、「印刷物と手書きの習慣による違いで、問題にする必要はない」としています。つまり、「」と「」でも間違いではなく問題がないとされています。皆さんは、どちらの「」・「」で書いていますか?

 最後に、「令和」という語彙は、中国や台湾の字書である『漢語大詞典』(漢語大詞典出版社1997)、『佩文韻府』(康熙(1661~1722)間勅撰 臺灣商務印書丱館1937)、『聯緜字典』(臺灣中華書局 1979)等に、単語としては出てきません。『万葉集』を出典とする日本独自の元号が用いられることになったことは、実にユニークな快事だと思います。

 大正大学人文学科哲学・宗教文化コースは、このような元号のそれぞれの字に注目した研究や、その意味の元となった中国における哲学・思想などを学ぶことが出来ます。改元を機に東洋哲学を大正大学で学んでみませんか?

 

文学部人文学科 哲学・宗教文化コース 

教授 春本秀雄 (H.31.4.10.)