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比較文化専攻

戦争と文化(番外編)――宮崎駿氏の5年ぶりの最新作「風立ちぬ」の公開によせて

 宮崎駿氏の5年ぶりの最新作「風立ちぬ」(7月20日公開)が話題を呼んでいますね。私は「もののけ姫」しか見たことないのですが、今回の作品は見に行ってみようと思っています。

 その理由は、「ゼロ戦」(零式艦上戦闘機)の設計主任として有名な堀越二郎(註1)が主人公のようだからです。

 

 

Jiro_Horikoshi.jpg

  「戦闘シーン」は出てこないそうですが、ウィトゲンシュタイン的にいうと、戦闘は「作品そのものの中には描かれずに、作品の外部にあるものとして示される」のかもしれません。そうだとしたら、私としては、その表現方法にも興味があります。とはいえ、これは自分勝手な期待です。

 

 ところで、多くの人は知っているようですが、宮崎氏はかなり兵器や軍事に詳しらしいですね。その証拠として、昭和33年(1958年)に書かれた文章がネットにありました(註2)。昭和33年4月10日発行の『世界の艦船』に掲載された文章(データ化されたもの)を貼り付けます。現物も写真として同じサイトで見られます。

 

   4月号の「魚雷艇の話」、非常に興味深く拝読しました。ただ、ちょっと感じたのですが、これからの魚雷艇の価値を判断するのに、 第2次世界大戦の戦訓に基いてするのでは、ずいぶん不合理な点も出てくるのではないかと考えさせられました。魚雷艇の兵装はたいして変わらないが、その相手になる艦船と航空機の、火器の精度と電子兵器の進歩はすさまじいものがあると思います。これからの魚雷艇は局地戦闘において、敵航空機の跳梁下に行動することも多いと思います。しかしMTB、MGBの40ミリ機砲および4.5インチ単身砲は、第2次世界大戦の速力300浬/時の攻撃機、あるいは浮上潜水艦との戦闘ならともかくも、これからの超スピード攻撃機に、どの程度の対空威力を発揮しうるといえるでしょうか。現在ミサイルは各方面に急速な進歩をとげつつあり、着着実用の域に達しつつあります。魚雷艇は高速航海時に多量の熱放射線を出し、それは空対艦の熱線ホーミング装置のミサイルに良好な感度をあたえます。魚雷艇の火器の射程外から安全かつ正確な攻撃が可能です。こうなると魚雷艇の被弾率は少なく、対空火力は有力だということはいえなくなります。駆逐艦は火器を対空ミサイルに改装することが可能ですが、50-100トンの魚雷艇ではミサイルを装置すればMTB(Motor Torpedo Boat)、MGB(Motor Gun Boats)の役は、果たすことが不可能になります。結局大型化の必要が生じてきます。これからは敵航空機の優勢な局地における駆逐艦と魚雷艇の経済度云々は成立しなくなるのではないでしょうか。
 魚雷艇は対潜一本に進むべきでしょう。その点わが国の魚雷艇が派手ではありませんが着実にその道を歩んでいるのを見ると嬉しく思います。生意気な意見をのべましたが、私もわが国の艦艇の進歩を祈る1人です。愚見御笑覧下さい。    (東京都杉並区永福町 宮崎駿)

 

 

Zero_fighter@JacoTen.jpgのサムネイル画像

 Jaco Ten 

 

 

 この「兵器オタク」の文章を読み、宮崎氏のイメージがだいぶ変わりました。

「風立ちぬ」の作品としての出来はもちろんのこと、堀越二郎やゼロ戦がどのように描かれているかも、われわれとしては興味津々ですね。

それにしても、どうして70歳を超える宮崎氏が「ゼロ戦」や「堀越二郎」をとりあげたのでしょうか? 素材は他にもいくらでもあるのに。

「風立ちぬ」も、クレフェルトのいう「戦争文化」の一部であることは間違いありません。これでまた、子供から大人まで、戦争文化に興味を持つことになりますね…。われわれは戦争文化から完全に脱することはできないのでしょうか?

 

(比較文化専攻長・星川啓慈)

 

【註】 

(1)堀越二郎の写真は、次の資料から転載。ジブリ最新作主人公(ゼロ戦設計者・堀越二郎)「幻の名機 烈風」の設計図に込めた思い | 賢者の知恵 | 現代ビジネス [講談社]

(2)http://hayao-ghibli.seesaa.net/