学部・大学院

「学び」と「実践」を通じた人材育成

比較文化専攻

有賀夏紀先生のご退職と2つの修士論文の紹介

 

はじめに

 

昨年度、大学院比較文化専攻では、客員教授として長年にわたって多くの院生をご指導くださった、有賀夏紀先生がご退職になりました。

また、2つの修士論文が提出され、無事に受理されました。張可人さんの「30年間の『ユーキャン新語・流行語大賞』にみるカタカナ語の特徴」と、宮坂麻友さんの「語用論に基づく映画を活かした英語指導研究」です。

やや時期が遅れましたが、有賀先生のご紹介ならびに先生へのメッセージを伊藤淑子先生にお願いしました。また、無事に受理された2つの修士論文の内容紹介を西蔭浩子先生にお願いいたしました。

 

(比較文化専攻長・星川啓慈)

 

 

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左から3人目が有賀先生、左から2人目が宮坂さん、右から3人目が張さん

 

 

 長年にわたって客員教授として比較文化専攻の大学院生をご指導いただいた有賀夏紀先生が、20153月をもってご定年退職されました。

学問に対して妥協しない厳密な姿勢を貫くことを教えていただきました。一方で、有賀先生のあたたかいお人柄に、比較文化専攻の大学院生はいつも励まされてきました。研究に行き詰ったり、自信をなくしたときには、力強く支えてくださいました。

有賀先生のご専門であるアメリカ学とジェンダースタディーズにとどまらず、どのような分野であっても、大学院生の研究テーマにあわせて、的確な助言とご指導をいただきました。

教えていただいたとおり、学際的視点から、独創性と堅実さを備えた研究を進めてまいります。

有賀先生、ありがとうございました。これからも折々に、お導きくださいますよう、お願いいたします。

 

(比較文化専攻教授・伊藤淑子)

 

 

30年間の『ユーキャン新語・流行語大賞』にみるカタカナ語の特徴
張 可人

 

 本研究は、日本語を外国語として学ぶ外国人の視点から、カタカナ語の特徴の変化に注目し、『ユーキャン新語・流行語大賞(以下「流行語大賞」』の1984年から2013年までの30年間の受賞語を分類し、その特徴の分析を試みようとするものである。
 中国語は表記がすべて漢字で、外来語も「音訳」「意訳」「混訳」の方法で処理され漢字表記になる。その一方で、日本語表記は漢字・平仮名・カタカナ・アルファベットを目的に応じて使い分けている。「流行語大賞」の中の受賞カタカナ語を分類することで、カタカナ語の特徴を分類し、日本人のカタカナ語に対する意識の変化を浮き彫りにすることを目的とした。
 調査研究は2段階で行われた。まず、事前調査として対象を一般雑誌4誌の特集記事に絞り、使用されているカタカナ語の抽出・分類・分析をし、カタカナ語の傾向を探った。分類は『新版日本語教育大事典』のカタカナ表記23種類に従った。その結果、一般誌で使用されているカタカナ語の特徴は「混種語」「和製外国語」「表記者が特別な意図を加味した語」の3種類に集中していた。他の20種類は、外来語、外国語の発音、外国製日本語、擬音語、擬態語、学術専門語、動植物名、感動詞、終助詞、振り仮名、方言、外国人の日本語発話、隠語、俗語、人名国名、地名、機関施設名、常用漢字の一義でない語、漢字で記されるとわかりにくい語に細分化されている。
 第2段階は本調査で、1984年から2013年までの30年間の「流行語大賞」を受賞したカタカナ語 (全140語)の抽出・分類・分析をし、事前調査結果と比較し、日本人の使用するカタカナ語の汎用性を検証した。
 30年間の「流行語大賞」のカタカナ語の特徴は、140語中「混種語」(41)、「表記者が特別な意味を加味した語」(28)、「和製外国語」(23) となり、30年間の変化を分析した。
 「混種語」の変化は2つみられた。第1の変化は「漢字や和語のカタカナ語化」である。大賞設立当時は「漢語/和語+カタカナ語」の混種語(ex. 千円パック 1984/ 冷めたピザ 1998) が一般的だったが、2000年代には「漢語や和語を敢えてカタカナ表記」(ex.シンジラレナ~イ 2006/ アベノミクス 2013)の傾向が強くなった。
 第2は、「省略語の多用」である。1900年代の「省略語」は「和製英語」(ex. キャバクラ 1986)の特徴であったが、2000年に入って「混種語」に「省略語」が多用されるようになった。混種語の省略語には「前半部」「後半部」「中間部」「混合」の省略形があるが、「流行語大賞」では「混合省略形」(ex. ボキャ貧 1998/ イクメン 2010)が顕著になった。英語だけではなく、漢字や和語の一部を省略して他のことばと合成して混種語が作られるために、意味が不明になるという問題がある。同時に、漢字をカタカナ表記にすることで漢字の硬いイメージに柔らかくし、省略形を用いることでカタカナ語に意外性を与えるという効果もある。
 「表記者が特別な意味を加味した語」の特徴について則松・堀尾(2005) は、漢字やひらがなを避ける傾向には①話ことば風の表現②特殊な意味やニュアンスをもたせる③語句の切れ目を明示の3点を挙げているが、「流行語大賞」のカタカナ語では特殊な意味やニュアンスを与えることで、表記者の意図を強めている。
 「和製外国語」は2種類あり、英語を省略している形(ex. ヤンママ 1994) と英語として通じない形(ex. スマホ 2012) であるが、30年間で省略形が8つに対し、通じない形は15と該当しており、これからも増える傾向にある。
 「流行語大賞」を受賞したカタカナ語は時代を映しているといわれるが、本調査研究は、漢字・和語を自由自裁にカタカナ表記したり、混合省略形が今後も増えていくことを示唆している。

 

(比較文化専攻教授・西蔭浩子)

 

 

語用論に基づく映画を活かした英語指導研究
宮坂麻友

 

戦後の英語教育が教養として知識を吸収するために外国の文献を和訳するという文法訳読中心であったが、1998年に「実践的なコミュニケーション能力の育成」が中学校・高等学校の学習指導要領に明記され、2003年に策定された「『映画が使える日本人』育成のための行動計画」が、その後の日本の英語教育の目標を文法重視からコミュニケーション重視の授業へと変化させた。しかし、教育現場における教授法は試行錯誤を繰り返し、未だ過渡期にある。
 本研究の目的は、コミュニケーション能力を育てるためにオーセンティックな教材である映画を用いて、学習者に「現実の言語使用の場」でreal world communicationができる「語用論的能力」を身につけさせるための指導方法を提案することにある。
 「語用論」とは、話し手と聞き手との間でことばの意味をコミュニケーションの観点からその場面に即して考えていく学問である。たとえば話し手の「この部屋は暑いですね」の意図が、「(暑いから)窓を開けてくれませんか」という「依頼」か「(暑いから)窓を開けてもいいですか」と「許可」を求めているものかはコンテキストにより異なる。こうした場との関係性を理解し、相手の意図することを正確に把握してコミュニケーションできる力が「語用論的能力」である。
 現実に言語使用の場を作りだすためには、オーセンティックな教材が不可欠である。自然な会話や表現を学ぶことができる映画として『プラダを着た悪魔(以下「プラダ」』を選択した。理由は次の3点である。まず、主要人物のモデルがファッション誌『Vague』の編集長Anna Wintourという実在の人物であり現実感がある点、第2にファッション界が舞台で学習者の興味を引く点、第3が学習ポイントの「電話応答場面」が豊富である点にある。
 指導内容は、「電話応答場面」での“want”“need”“favor”“wonder”を用いた表現の理解である。抽出した表現は「依頼表現」としても「命令表現」としても使用されるが、話し手と聞き手の関係や、状況に即して伝達される意味が変わるので、学習者が学習すべき点は多い。「依頼表現」を学ばせる目的は「学習者が相手の意向を尋ねて依頼する」表現で、「命令表現」の目的は「学習者が相手に命じたいことを正確に伝え、相手に行動を起こさせる」ための表現であり、いずれもその真意を理解することがreal world communicationを可能にするからである。
 語用論に基づく映画を活かした指導法の流れは、①映画の該当場面試写、②場面の全体的理解の確認 ③スクリプトでターゲットセンテンスの確認、④語用論的指導(話し手と聞き手の関係、話し手の意図への理解に注目させる)⑤該当場面の確認試写、の5ステップである。
 語用論的指導ポイントは、まず、学習者に書く場面状況を伝え、次に話し手と聞き手の人間関係を考えさせ、話し手の意図を理解させる。I wantは話し手の希望を伝える表現として用いられるが、『プラダ』では“I want one no-foam skimmed latte with an extra An extra shot…”と聞き手に選択を与えない、強い命令文として機能する。注視すべき点は、このターゲットセンテンスの前に上司が“You need……. … pick up her coffee order on the way.”と依頼しているにも関わらず、“Now?”という部下の返事に上司が苛立ち、I wantを「依頼」ではなく強い「命令」として用いた結果である。
 映画を利用した語用論的指導方法は、教室という限られた空間でのreal world communicationの可能性を現実のものとするであろう。

 

(比較文化専攻教授・西蔭浩子)