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比較文化専攻

大正大学大学院比較文化専攻の修士論文のご紹介①

大正大学大学院文学研究科比較文化専攻において2021年度に修士課程を修了する史星皓さんの修士論文の内容の要約を紹介します。

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ディズニーのアニメ・映画にみるジェンダー

史星皓



 本研究は、ディズニー社が20世紀に制作したアニメーション作品に描かれたプリンセスたちを比較研究し、さらに21世紀のディズニー作品を実写化作品も含めて読解し、社会的・文化的な時代背景を踏まえ、ディズニーにおけるジェンダーの変遷について考察することを目的とする。
 ジェンダー規範の変化によって、他者依存によるヒロインが成りたちにくくなったことによって、「白馬の王子」との結婚が物語のクライマックスでありゴールであったディズニーのクラッシック・プリンセスたち(伝統的女性像)は、どのように描きなおされるのか、多文化主義が前提の現代において、少数民族やLGBTQなど、辺縁化されたマイノリティたちの声をディズニーは社会に伝える媒体になりうるのか。これらの問いを考察するために、フェミニズム運動・LGBT運動に関する資料や、今までのディズニーのアニメ・映画に関する諸多の研究を参照する。様々な書籍・論文の研究方法や視点を参考にしながら、ディズニーのアニメ・映像作品が表現しているものを批判的に研究し、表面的な物語に隠された作品の意味を探り、時代によって変遷する女性像やLGBTQなどジェンダー領域に関する社会の問題意識がどのようにディズニーのプリンセス像に影響を与えてきたかを考える。

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 ディズニーのアニメ・映画作品における女性像を研究するために、「ディズニー」と「ジェンダー」を主要的な方向として考察を行い、そのほか、プリンセスたちを分析する際に、フェミニズム理論と家族論とポストコロニアル理論に関する議題も関わるため、関連する文献や書籍にも触れて考察した。本研究では、20世紀のディズニー作品を研究することにあたっては、日本語の文献を主な研究資料とし、2000年に入ってからの作品については、参照できる日本語の文献が限られているため、英文文献も取り入れて考察を進めた。
 本研究は、2つの部分で構成される。
 第I部は2章から成り、ディズニー社の歴史と女性運動の歴史について考察した上で、20世紀のディズニーの映画・アニメにおけるプリンセス像の考察をした。
 ディズニーの歴史について、さらに4つの節に分け、短編無声から長編カラーへ進行するディズニー王国の始まり(〜40年代)、クラシック・プリンセスたちが築いた第一次黄金期(1950〜1970)、フェミニズムや多文化主義の潮流を掴む第二次黄金期(1989〜2000)、技術上の革新とともにジェンダー意識も進化する新世紀(2000〜)という流れで考察をした。フェミニズムの歴史については、政治的権利を目指す第一波フェミニズム(19世紀後半〜20世紀初)、「女性らしさ」の神話から解放する第二波フェミニズム(1960〜1970年代)、国境と人種を越えて個性の平等を志す第三波フェミニズム(1990〜2000)、SNSの利用でマイノリティを連帯する第四波フェミニズム(2010年〜)という4つの時期を次第に考察した。
 20世紀のディズニーの映画・アニメーションを考察するにあたっては、2つの節に分け、白雪姫、シンデレラ、オーロラという3人のクラシック・プリンセス像から、アリエル、ベル、ジャスミン、ポカホンタス、ムーランという5人のニュー・プリンセス像への変化を分析し、第二波と第三波のフェミニズム運動の展開に応じて、ディズニー社の作品におけるジェンダー意識にも変化が見えることを論じた。
 続いて、第II部では、21世紀に誕生した新たなプリンセス像を考察した。長編アニメーションから実写化された映画におけるプリンセスの変容を分析し、ディズニーの映画・アニメにおけるジェンダー像の変遷を論じた。
 21世紀のアニメーション作品の新しいプリンセス像の考察では、6つの節に分け、『魔法にかけられて』、『プリンセスと魔法のキス』、『塔の上のラプンツェル』、『メリダとおそろしの森』、『アナと雪の女王』、『モアナと伝説の海』を論じた。長編アニメーションから実写化された映画におけるプリンセス像の考察では、『眠れる森の美女』の実写版『マレフィセント』、『シンデレラ』の実写版、『美女と野獣』の実写版、『アラジン』の実写版と『ムーラン』の実写版を分析した。
 以上の分析と考察を通して、時代の進行とともに、ディズニー社による作品におけるジェンダー表現は、フェミニズム運動と密接に関連して変化していると結論づけた。設立の初期から第一次黄金期まで、ディズニー社は時代の特徴を的確に捉え、『白雪姫』など伝統的なジェンダーを映し出す作品を創作し、映像文化という新しいメディアで人々に希望と勇気を与え、興行的な成功を次々と収めた。ウォルトの逝去により長い低迷期に入ったディズニー社は、アイズナーなどの有能なリーダーを得て、世界中に広まる女性解放運動をはじめ、様々な時代の変化に合わせて新たな女性観を描き、新しいプリンセス像を誕生させた。
 21世紀を迎えると、社会意識の変化に対して敏感に反応するディズニー社は、さらに自社の業績に培われた伝統の枠を超え、20世紀のディズニーの表現要素を再利用し、ときにはみずからパロディー化しながら、変革を遂げ続けている。それは社会的現象すら起こし、社会の変化をディズニーが映し出すだけではなく、ディズニーが文化的価値観の方向性を提案するようになっているということもできるのではないか。
 ディズニー社の映像作品を考察することを通して、時代の変遷と女性パワーのエネルギーを捉えることができる。これから、ディズニー社はどのようなプリンセス像を誕生させるだろう、これはこれから多くの研究者が考察しなければならない課題であり、筆者自身の関心事でもある。

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※この記事からの引用は、史星皓「ディズニーのアニメ・映画にみるジェンダー」修士論文紹介と明記し、URLを示してください。

★人文学科 助手

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