学部・大学院

「学び」と「実践」を通じた人材育成

仏教学コース

【卒業生の活躍】山内綾子さん

この度、新しいコース・仏教遺産コースが新設されるとのこと。おめでとうございます。

特にこのコースは学芸員資格取得等にも力を入れてゆくと伺っております。

私は大学院修了後、幸いにも静岡県で学芸員として働く機会をいただき、また結婚を機に退職し住居も名古屋へと移りましたが、名古屋でもまた今の美術館とご縁をいただき、現在まで学芸員として勤務させていただいております。

そんな私の道のりが少しでも後輩の皆様の参考になればと、寄稿させていただきました。

 

私は中学生の頃から美術館、博物館にはよく通い、将来は美術館・博物館で働きたいと思っていました。

そして大正大学仏教学科へは、仏教美術を学びたくて当時新設2年目の仏教文化コースに入学しました。

その後大学院修士・博士と進み、結局約9年間在籍していたのですが、その間、もちろん仏教美術(特に仏画)の研究もしながらも、学芸員になりたいという思いも強くなっていました。

ですが学芸員はその募集がなく、職に就くのはかなり難しい状況でした。

そこで私は情報を集め、学芸員になるために有効そうなことは手当たり次第にやってみました。

学部の頃は学芸員になるには教員資格を持っていた方が良いと聞き、教員資格も取りました。

教員と学芸員の両方の資格をとるとなると、授業数がかなり多くなり大変でした。

加えて茶道部にも所属していたので、茶道の稽古や茶会の準備もある上に、中学からやっていた吹奏楽も続けていて、地元の一般吹奏楽団にも所属し、楽団の演奏活動などもあったので、毎日忙しく、今思うと良く続いたものだと思います。

ですが、このやりたいことを全部やった学部時代は、生涯続く人間関係を構築でき、私の人生においてとても大事なものになっています。

そして4年になる頃、学芸員は研究職なので、大学院卒でないと就職が難しいと聞き、大学院進学を決めるのですが、もろもろの事情で親からの援助はなくなり、自分で授業料他を捻出しなければなりませんでした。

そのため育英会の奨学金を申請しました(結局大学院を出る頃には700万円以上の借入金になっており、無利子で助かりましたが2年前にやっと完済しました)。

授業料は奨学金で賄えましたが、生活費が足りずバイトを余儀なくされました。

それでもどうせバイトをするなら将来につながるものが良いと思い、美術館関係のバイト先を探し、美術館の受付(チケット販売やグッズ販売)、郷土資料館の民具整理及び調査なども加えました。

バイト代は高くはなかったですが、そこでの経験は今でも役に立っています。

博士課程の時には、静岡県のある町の民俗調査員のお話をいただき(毎月2日~3日現地に入り聞き取り調査をし、それをまとめる)、資料編と通史編の編纂で5年間務めました。

民俗は専門外でしたが、屋外での調査方法や聞き取り調査のコツなどを学ぶことができました。

その仕上げに調査結果をまとめた資料編と全体をまとめた通史編の執筆をさせていただきました。

この民俗調査員の最中に、博士課程を修了し、大学に残ろうかとも思ったのですが、静岡の美術館学芸員のお話をいただき、念願の学芸員職でしたのですぐさま静岡へ単身引っ越し、学芸員をしながら調査員も続けました。

そして静岡でも吹奏楽団に入ったり、バンドを組んだりして、独り身を謳歌していましたが、縁あって結婚し、退職、名古屋へ転居。もう一度学芸員として働けるとは思っていなかったのですが、結婚1年後に現在の美術館へ就職することができ、再び学芸員として勤務するようになりました。

静岡の美術館では、これまで学んできた仏教美術の知識を役立て、地元の教育委員会などと協力しながら、域内の寺院の仏像悉皆調査をしたり、展示も仏教美術に関わるものでしたので、大学での知識が役に立ちました。

次の名古屋の美術館は、近現代の日本画を中心に所蔵しているところでしたので、展覧会も必然的に近現代から現代の作家の絵画作品を取り扱う事になりました。

近現代の日本画はもちろん専門外でしたが、その都度学び、知識を増やし、静岡での学芸員の実務経験も生かしながら、無我夢中で走ってきました。

気づけばまもなく18年となります。

近現代の日本画や工芸品を扱う事も長くなり、所蔵品に関することであれば、大概のものは解説ができるようになりました。

私立の学芸員の多くは自身の専門分野だけで仕事ができることはほぼなく、研究だけをしていればよいわけでもありません。

所属する館に合わせて様々な分野の知識を必要とされ、常に知識を増やしていかねばなりません。

今の職場もいろいろな専門知識を持つ学芸員が集まって、展示を企画していきます。

それぞれの学芸員が各自の専門知識や経験から展示を組み立てます。

各自の持ち味によって同じ作品を展示しても切り口が異なり、来館者にとっても楽しめるものとなっているのではと思います。

もちろん私は今でも仏教美術には関心や研究心は持っていますし、所蔵品を調査する中で、1点でも仏教美術に関するものはないか、展示に組み込めないかも考えています。

それは私にしかできない視点であり、強みでもあります。そして私にとってこの仕事はとてもやりがいのあることであり、何より楽しいことであるのは間違いありません。

これから新しいコースで、自分の夢、やりたいことを叶えたいと思っている後輩の方々に私からお伝えできることは、「あきらめは悪い方がいい」「自分で自分の枠を決めない」「何にでも興味を持って、とりあえずやってみる」でしょうか。

人生は長いです。

一見回り道だと思ってもあきらめず、やりたいと思う事、夢を思い続ければ、完全に同じではないにしても、夢に近いことはできると思います。

どうぞあきらめ悪く、好奇心旺盛に学生生活を送っていただけたらと心から思います。

 

 

  • 美術館情報●

名古屋市にある古川美術館は、名古屋の実業家・古川爲三郎が集めた美術品の寄贈を受けて開館した美術館です。所蔵品は近現代の日本画を中心に、洋画、工芸品など多岐にわたり、年間5回程度の企画展、特別展を開催しています。103歳の長寿であった爲三郎が終の棲家とした邸宅は「分館爲三郎記念館」として開館しており、建物は昭和9年創建の数寄屋造りで、国の登録有形文化財に登録されています。この爲三郎記念館は、邸内を展示空間として公開するだけでなく、“数寄屋de café”としても営業しており、併設の日本庭園を眺めたり、美術品を鑑賞しながら抹茶やコーヒーを楽しむことができます。また展覧会に合わせた茶会や、茶席も開催しています。美術館と記念館という趣の異なる空間を是非楽しんでください。

 

 

名称:公益財団法人古川知足会 古川美術館・分館爲三郎記念館

所在:〒464-0066 名古屋市千種区池下町2-50

電話:052-763-1991(代表)

URLhttp://www.furukawa-museum.or.jp/

 

開館時間:10時~17時 最終入館は1630

休館日:月曜日(但し祝日の場合は翌平日)

入館料:一般1000円~、高大¥500、中学生以下無料

    (古川美術館と分館爲三郎記念館との共通券)

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