学部・大学院

「学び」と「実践」を通じた人材育成

文化財・考古学コース

刀剣・姫路城・古墳の旅―塚田ゼミ学外合宿研修―

 2022年1113日~15日、文化財・考古学コースの塚田ゼミ3年生は岡山から姫路、大阪、奈良へと、史跡と博物館をめぐる学外合宿研修をおこなった。コロナ禍で身動きのとれなかった2年間が過ぎ、ようやくそれぞれの研究テーマに関する文化財を自由に見て歩くことができるようになり、大きな刺激を受ける2泊3日の旅となった。刀剣、近世城郭、古墳、副葬品など、さまざまな文化財に触れた学生たちのレポートを紹介したい。
 見学にあたってご指導を賜った姫路市立城郭研究室の工藤茂博学芸員、奈良県立橿原考古学研究所附属博物館の青柳泰介学芸係長、伊東菜々子学芸員をはじめ、見学や旅の途中でお世話になった方々に厚く御礼申し上げる次第である(教授 塚田良道)

【第1日】

■ゼミ合宿の1日目は岡山から始まった。「備前おさふね刀剣の里 備前長船刀剣博物館」を訪れ、極めて貴重で幸運な体験をすることができた。
  備前おさふね刀剣の里は、博物館や鍛刀場や仕上場などの鍛冶場、研ぎ場を含めた工房一帯、物産店を含む総合施設となっている。ここでは、刀匠の鍛錬する様子を見学することができ、私たちも見学することができた。最初は、窓の外側から中の様子を伺う状態だった。見学に来ている人も多く、窓も中と外の気温差により曇っていたため少し見づらかったが、テレビが設置してあり作業を見ることができた。鋼の鍛錬は、刀匠が火の様子に合わせ空気の調整をずっと行い、鋼を鍛えるタイミングで合図をだし、刀匠含めた3人で鋼を大槌と小槌で交互に鍛える作業を繰り返す様子が伺えた。空気の調整により赤と青が入り混じった火の様子や熱せられた鋼を打ち付けることで、花火のように火の粉が飛び散る様子はとても迫力あるものだった。
  幸運な機会にも恵まれた。事前予約制の鍛刀場内の見学チケットが3人分残っており、刀剣をテーマに卒業論文を書く私を含めた3人は間近で鍛錬を見学することができたのである。鍛錬見学にも感動したが、なにより仲間が優先してチケットをくれた気持ちにとても感動を覚えた。かけがえのない思い出となった。(尾崎)

■おかやまマラソンと被る渋滞で、2名ほど集合時間に遅れるといったトラブルが発生したものの、最終的には全員無事に合流し、博物館を堪能した。道中は、なかなか東京では見られない田んぼが広がっており、空気が大変美味しかった。
  備前長船刀剣博物館は実際に職人さんが作業する場所が唯一公開されている。たまたま鍛錬を間近で見ることができるチケットを3枚入手したため、刀剣を研究している3人で見学させてもらった。12001300℃の熱で刀匠が3人体制で玉鋼を打つ古式鍛錬は火花が予想以上に飛び散り、鋼から破裂音の様な音が鳴り響き、映像で見る以上の迫力を味わうことができた。さらに刀匠が片手で軽々と持っていた折り返し鍛錬したものを触らせてもらったが、とても片手で持ち上げることができないほどの重さがあり、貴重な体験をさせていただいた。
  館内では、令和に作刀された展示会や刀の見方といった展示がおこなわれていた。また、国宝である「三鳥毛」のタッチパネルビューアや、刀剣の歴史、製作方法が図で記されたパネルなどの展示がされていた。また、物販コーナー「ふれあい物産館」では備前焼や鍛刀場で作られた包丁など、刀剣に関するお土産が販売されており、お茶処もあって、アイスクリームを食べる人もいた。(坂元)

刀を鍛錬する様子 
      刀を鍛錬する様子          鍛錬する鉄を持たせてもらう


第2日

■2日目の朝、ホテルを出発し姫路城に向かった。前日の夜に見た姫路城と、明るい中で見た姫路城とでは印象が違い、城の規模の大きさを実感した。
  姫路城見学では、姫路市立城郭研究室の工藤茂博さんに城内の案内と説明をしていただいた。普段は見ることのできない場所にも案内していただき、石垣の時代ごとの積み上げ方法の違いや、石材の産地、曲輪の配置の解説をしていただいた。
  とても印象に残っているのが、白壁の下段に張り出して設けられた「石落とし」の使用についてのお話である。テニスボール大の石しか落とせないということで、主力は鉄砲であったと考えられている。そして、石垣を監視するための窓としての役割もあったとおっしゃっていた。石を落としたとしても致命傷を負わせることはできないため、石垣に当たった石が割れ飛び散ることを想定していたという話を聞き、目から鱗が落ちた。
  姫路城天守の最上階には、畳が確実に敷いてあったということに興味を持ち、どのような根拠があるのかを自分で調べてみようと思った。
  工藤さんの貴重なお話を聞いたうえで、興味を持った部分がいくつもあり、卒論のテーマに迷いが出てきた。そのため、さらに姫路城について調べようと決心した。(髙橋)

■ゼミ旅行2日目、9時より姫路城見学をおこなった。姫路市立城郭研究室学芸員の工藤茂博さんに案内していただくことになったが、道中での案内に加えて、通常ではなかなか見ることのできない北西~北側の二の丸・備前丸を囲う石垣の一部も見学することができた。
  石垣を最初に見学したが、急勾配の地形にあわせて積み上げられているため非常に歩きづらく、皆移動だけでも大変な状態だった。帰路もこのときの大変な思いを思い出すゼミ生がいるほど、この経験は今回のゼミ旅行でも強い印象に残ったと思う。
  そのような苦心はあったが、他の来城者のいない静かな環境で、秀吉時代の石垣を観察し、石落とし・雨どいなどの設備の解説、また工藤さんの学芸員経験に基づいた地域住民と姫路城とのかかわりについてなど、一人で見学に来たときには聞くことができない貴重なお話をうかがうことができた。
  天守内部から出てきたころには快晴の青空が広がり、とてもきれいな集合写真を撮ることができた。(中村)

■姫路城の次に向かったのは、古墳といえば必ず代表格の一つとして挙げられる大山古墳(仁徳天皇陵)であった。
  当初の予定より時間を大幅にオーバーしてしまった塚田ゼミ一行が、堺市の大山古墳に到着したとき、すでに日は暮れかけていた。「逢魔が時」とされる夕方からか、とても厳かな雰囲気で、今まで見てきた古墳とは全く空気感が異なった。お墓というより、神社の境内といった神秘的でどこか妖しげな空気感。さらに古墳の周りに設置されている街灯の明かりが、ずっと遠くまで続くほど大きかったことも衝撃的だった。大きすぎて、地図上からでしかどのくらいの大きさであるのかわからない古墳に、とても胸が高鳴った。
  その後、夕食に訪れた韓国料理店で、サムギョプサル、キムチ、キンパなど、韓国風焼肉や海苔巻きなど多くの料理をみんなでおいしくいただいた。(手呂内)

    
       工藤学芸員の案内で姫路城を囲む石垣をめぐる                姫路城天守の前で記念撮影                                  夕暮れの大山古墳にて


第3日

■ゼミ旅行3日目の午前、奈良県立橿原考古学研究所附属博物館を見学した。
  展示資料は、纒向遺跡、メスリ山古墳、黒塚古墳、藤ノ木古墳などの著名な古墳や、飛鳥時代の宮都など貴重なものばかりで、奈良県が日本史において重要な位置を占めることを改めて感じた。
  今秋期の特別展である「宮廷苑池の誕生―飛鳥京跡苑池から日本庭園へ」を、伊東菜々子学芸員から説明を交えながらご案内していただいた。湧水点をテーマに祭祀がおこなわれ、当時から水が神聖なものとして意識されていたことが大変興味深かった。
  特に印象深かったのが、国史跡の藤ノ木古墳の展示である。未盗掘であっただけに、副葬品の金銅鞍金具や鉄地金銅張鞍金具は状態がとても良く、豪華で精緻な彫金に圧倒された。また、卒業論文のテーマとして考えている横穴式石室の飲食儀礼に関連して、渡来系の特徴であるミニチュア炊飯具の展示を見学することができ、今後研究を進めていくうえで貴重な経験となった。(永井)

■あっという間に迎えたゼミ旅行3日目。大阪上本町駅から畝傍御陵前駅に下車し、大荷物を抱え、最後の目的地の橿原考古学研究所附属博物館に向かった。静かで、落ち着いた雰囲気が漂う入口から、研究所のマスコットキャラクターのイワミンがお出迎えしてくれた。
  常設展示では、主に古墳時代の展示室から塚田先生による実体験や雑学を含めた解説があった。個人的に心躍った展示は、藤ノ木古墳出土の遺物である。未盗掘で発見されたというこの古墳からは煌びやかな金銅製の副葬品が多く出土しており、展示ケースから目が離せなかった。また、色とりどりのガラス製の首飾りが多く見られたことも非常に興味深かった。
  共に考古学を学ぶ仲間と過ごせた3日間はとても有意義であり、同時に息抜きにもなった。また、考古学をはじめ「モノ」の研究には、実物を見ることが何よりも大切であり、そこから研究が始まるということも改めて感じた。どこを切り取っても勉強になり充実していた旅行から、さらなる研究の励みにしたい。(倉島)

■今回のゼミ旅行は2泊3日で岡山・兵庫・大阪・奈良の4府県を巡る旅だった。
  県をまたいでの移動だったため移動距離・時間ともに長めで、そこそこハードな旅だったが、それを忘れてしまうくらい現地で見たもの、伺ったお話や体験したこと、ひとつひとつがとても印象的で内容の濃い旅行だったように思う。
  また、史跡や博物館を見学するということだけでなく、みんなで一緒に食事をするというコロナ禍の大学生活の中では難しかったことも、今回の旅行でできたことがすごくうれしかった。1日目の夕食後、ライトアップされた姫路城を見ながらみんなで歩いた非日常的な時間も、電車での移動中など何気ない時間も忘れられない思い出である。
  この旅行では今まで写真や映像でしか見たことのなかったものの実物を見ることができた。本物を見ることで、本や写真、映像だけではわからなかったことや初めて気づくことも多く、「実物を見る」ということがいかに重要なことであるのか、改めて実感する機会になった。自分の研究テーマについて各々が模索している真っ最中である今、そのヒントや今後の研究を進めていくうえでの糧となる知識を得ることができた旅行になったと思う。(大河原)

 

      橿原考古研究付属博物館にて        ライトアップされた夜の姫路城で                 

 

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