学部・大学院

「学び」と「実践」を通じた人材育成

文化財・考古学コース

奈良と京都の寺院をめぐる ―大島ゼミ合宿報告―


 大島ゼミでは、28日から10日にかけてゼミ合宿を行いました。今回のテーマは「お寺をすみずみまで歩きまわること」。1日目は京都市内の永観堂禅林寺、2日目は奈良の法隆寺と中宮寺、3日目は同じく奈良の薬師寺と唐招提寺を、文字通り「すみずみ」まで歩き、伽藍の規模、立っている建物の配置、そこに安置されている仏像・仏画・仏具など仏教美術の様子を、体全体で、五感をすべて使って感じてきました。お寺の中に身を浸してはじめて分かることは多く、ゼミで学んでいる仏教美術が、この空間で「どのように使われ、どのような役割を持ち、どうしてつくられたのか?」ということを考えるきっかけになったと思います。

点描 永観堂禅林寺の見学
 永観堂禅林寺では、奈良の古代寺院に多く見られる伽藍配置とは違った堂宇の配置や、建物の名称の違いなど、奈良の寺院と京都の寺院の違いというものを実感しました。
 はじめ釈迦堂や古方丈で、仏像や障壁画が建物の中でどのように配置されているかを見てまわりました。そして阿弥陀堂では、本尊である阿弥陀如来立像(みかえり阿弥陀)を見学しました。みかえり阿弥陀は、首を90度左に曲げ振り返るようなポーズをした珍しいお像で、平安時代末期から鎌倉時代初期に造立されたと考えられています。首の向きや手の形、姿勢を自分の身体で再現することによって、本像の姿勢が人間の自然な姿勢を写したのか、仏という特別な存在を人間とは違うかたちで造ったものなのかを考えることができました。(大信田海斗)

点描 法隆寺をすみずみまで…

法隆寺の中門


法隆寺西院伽藍

 聖徳太子が建てたという法隆寺を、ゼミの皆で拝観してきました。法隆寺は私にとって初めて行く場所でもあったので、全てが新鮮に感じられました。
 法隆寺の中門には、日本最古とされる仁王像(金剛力士像)が安置されており(写真)、皆でそれぞれの像が持つ細かい特徴や違いを探していきました。人の体では無理なポーズであったり、筋肉が大きく盛りあがっていたりなど、様々な意見が出ました。それを聞き、人によって異なる視点で違いを見つけていたり、意見を踏まえて新しいことが次々とわかったりするのが、彫刻を専攻する私にはとても貴重な時間と感じました。
 そして廻廊の中に入っていくと、中はとても広く、外国人客や学生も多く見られましたが、静けさというのか、落ち着いた雰囲気が漂っていました。そんな雰囲気を作りだしている建物には、中国様式など様々な特徴が見られました。自分の目で見たものが何様式なのか、本当にその特徴がその様式に当てはまるのか意識しながら見るという経験は、先程の中門のことと併せてとても貴重で、今後に活かしていきたいと思います。(森下日奈子)

 法隆寺を訪れたのは中学校での修学旅行以来でしたが、以前とは違った視点で、大学で学んだことを活かしながら、1日かけてじっくりと見学しました。現在見ることができる再建法隆寺の西院伽藍は、五重塔と金堂が横並びになった独自の伽藍配置です。金堂は7世紀末に建てられた西院伽藍最古の建物で、飛鳥時代の釈迦三尊像等が安置されています。北西の小高い場所には八角円堂の西円堂があり、奈良の町を一望できました。
 午後は、土を何層にも積み重ねてつくられた築地塀が残る道にそって、東大門から東院伽藍に移動しました。聖徳太子一族が暮らしていた宮の跡に夢殿が建てられました。東院伽藍は、聖徳太子の像や聖徳太子の生涯が描かれた障子をまつる絵殿などがあり、まさに聖徳太子の為の空間でした。
 当時の人々、特に聖徳太子が思い描いた仏の世界に思いを馳せることができました。(志賀彩織)


西円堂からの眺め 

点描 法隆寺のお隣の中宮寺に
 法隆寺をくまなく散策し、近くの食堂で昼食をとった後、法隆寺の東側に隣接している中宮寺の見学へと移りました。中宮寺は聖徳太子の母である穴穂部間人皇后(あなほべのはしひと)の住まいを皇后崩御の後、聖徳太子がお寺としたものです。中宮寺のお堂は、お堀から伸びる大きな柱によって支えられている高床式で、四方に大きく広がる屋根が特徴的です。お堀に揺れる水と空へと高く伸びるお堂は凛としていて、荘厳な佇まいに美しさが感じられました。
 階段を登り、堂内へ入ると正面に本尊である菩薩半跏思惟像が安置されています。本尊の体色は黒く、静かな雰囲気を纏い、微かに笑う表情は参拝者たちを優しく包み込んでくれるような安心感がありました。本尊の左手には天寿国繍帳の複製が展示されていました。これは聖徳太子の死後、妃であった橘大郎女(たちばなのおおいらつめ)の発願により製作された、現代でいうカーテンのようなもので、ここには太子が往生した理想の世界が刺繍で表現されています。この作品をじっくりみることで飛鳥時代の人々が思い描いた仏の世界を想像することができました。(照山頌憩)

——————————————————————————————————

 そしてもう1つ、このゼミ合宿は、文化財・考古学コースの学びが、「社会ではどのような“仕事”に結びつくのか?」を知ることも目的でした。ゼミ合宿は、「大学での学問」と「社会での実践」が接続する機会でもあります。本格的な就職活動を控えたこの時期、自分が今まで学んできたことが、人びとの生活の中で確かに息づいていること、そして社会に必要とされていることを実感することは、これからの進路を考える上で大きな糧になるでしょう。
 今回のゼミ合宿では、龍谷大学龍谷ミュージアムで博物館学芸員として働く見学さんに、薬師寺で宝物管理担当の研究員として働く山本さんに、それぞれの現場の最前線についてお話をうかがいました。その後、展覧会場の中、お寺の中をご案内いただきながら、コースの理念「モノから歴史を考える」をたっぷりと行いました。

点描 龍谷大学龍谷ミュージアムの貸し切り見学
 開催中の特集展示「眷属―ほとけにしたがう仲間たち―」を、他のお客さんがいない時間に独占見学させていただきました。展示室で見学さんの解説を聞きながら、細部をしっかりと確認します。学生たちが使っているのは単眼鏡です。これがあると絵画作品をすみずみまで堪能できます。そして、特別にライトで照らしていただくと、さらに細部が見えてきました。自分の目で読み取った情報が、美術史研究では一番大事な財産になります。
 見学さんには、学芸員としての苦労話や醍醐味もお話いただきました。




今回見た特集展示の拡大版が、この秋に特別展「眷属(仮)」(2024年9月21日~11月24日)として開催される予定です。仏教美術の名脇役「眷属」の、個性豊かな姿や役割を紹介する内容です。


点描 薬師寺では仏像に近づく
 薬師寺では、宝物管理研究所の研究員・山本潤さんに「薬師寺の歴史と宝物の継承」という講義をしていただきました。その後、お話をうかがいながら時間をかけて境内を歩きました。
 文化財調査についてのお話では、昭和9年に行われた西塔発掘調査の出土品が令和元年に地蔵院で再発見され、再調査を実施したという内容や、平成15年に行われた修理の際に、大講堂に安置されている広目天の面相部が失われていたため補作したところ、近年になって面相部が発見されたため改めて正確な復元がされたという内容の話を聞きました。それがつい最近の出来事であったため、これからもさまざまな宝物が発見されていくのだろうと考えると、歴史や文化財の面白さを改めて実感しました。同時に、将来の研究進展のためにも資料の整理が大切だということも学ぶことができました。
 境内では、金堂の薬師三尊像や講堂の弥勒三尊像、東院堂の聖観世音菩薩像、四天王立像を近くで見学させていただきました。合宿前に見学予定の伽藍や仏像について調べていたものの、実物を見ると大きさや色などから受ける印象が異なり、さまざまな角度から見ることもできたためお像同士の比較もしやすく、今回の見学を通して観察力も身についたように感じました。(大久保琴海)


薬師寺東院堂

山本さんを質問攻めに

※文末にカッコ書きで名前がある部分は、ゼミ合宿参加の学生が執筆しました。それ以外の部分は大島が執筆者です。

※薬師寺および龍谷ミュージアムの堂内や展示室内の写真は、それぞれ許可を得て、撮影・掲載をしています。

 

 

 

 

GO TOP