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国際文化コース

「星川賞」の発表!――論文集『私たちのカルスタ』の総決算!!

 

はじめに

 今年の2月に、論文集『私たちのカルスタ』第2号が刊行されました。昨年に引き続いて、今年もカルスタ内外の皆さんにお見せできることになり、カルスタの教員はとても嬉しく思っています。

 教学支援部・事業推進室の皆さんには、大変お世話になりました。ありがとうございました。

 

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 星川賞の選考方法について

まず、今回から発足した、「星川賞」の選考方法についてお話します。

『私たちのカルスタ』への投稿者は12年生で、投稿総数は53編でした。第一段階で、それらをカルスタの12年生全員が読み、自分が良いと思うものを、1年生から1人、2年生から1人、投票で選びました。第二段階で、そのうち投票数が2票以上のものが私に伝えられ、その中から、私の選択基準に従って選考しました。2票以上の得票がなかった論文については、選考の対象とはしませんでした。その理由は、事前に「学生と教員の合議制で選考する」という申し合わせをしたからです。

 2票以上獲得した人の数は、25人(全体の47%)です。そのうち、2票が12人、3票が3人、4票が3人、5票が4人、6票が0人、7票が0人、8票が2人、9票が1人、という結果でした。

それらの論文の中から、着眼点、自分の意見の有無、議論の論理的な展開、論旨の一貫性、議論の説得性、結論、形式、明快さ、文章力などを踏まえて、総合的に選考しました。論文は、詩歌・小説・報告書・ルポ・エッセイなどとは違うので、選考基準も異なります。

短いながらもかっちりとしたもの、やや冗長ながらも長編の力作、論文とはいえないけれども着眼点の面白いものなど、それなりに評価できる点を具えたものがけっこうありました。最終的には、上で述べたように、全体的なバランス(総合点)で金賞・佳作を選びました。論文なので、「議論の論理的な展開」はとくに重視しました。

 書かれたものの評価は、往々にして、評価する人によって異なります。それは、多くの賞やコンクールで、審査員の意見が食い違うことに見られます。したがって、今回賞を取った人も取れなかった人も、学生諸君の投票結果ならびに選考結果に、一喜一憂しすぎないでください。まあ、カルスタの論文集のオマケくらいに考えておいてください。ついでながら、2票以上の得票がなかった論文の中にも、なかなか優れたものがあったことをお伝えしておきます。

 

全体の講評

 2票以上獲得した論文の一般的傾向は、次のようなものです。

 「正義と悪について」に分類される論文が8編で、投稿数の32%。「大人と子どもについて」に分類される論文が7編で、投稿数の28%。それゆえ、半数以上の投稿者が、これら2つの分類に投稿したことになります。両者に共通していえることは、明確な対立項が設定されていて書きやすいということです。そして、明確な対立項があるとすれば、「それらは単純に決めることができない」「状況によってそれらは変わる」「それらは相互依存的な関係にある」などという議論が展開されることは、想像に難くありません。

でも、重要なのは、言葉では単純にいえるそうした事柄を、自分でリアリティを感じながら追体験することです。だから、来年以降もこういう論文が出てくるでしょう。それは自然なことです。

しかし、それでも二項対立について書くならば、「それらは単純に決めることができない」「状況によってそれらは変わる」「それらは相互依存的な関係にある」ことを、どこまで深く掘り下げるか、どういう視点から論じるかが、腕の見せ所となってくるでしょう。もちろん、これら以外の視点にたつこともあるでしょう。

 

議論の進め方のパターンについて

ここで、議論の進め方のパターンについて述べておきましょう。投稿者のパターンは次の2つに大別されます。(1)はじめに⇒議論1⇒議論2⇒議論3⇒議論4⇒おわりに。(2)はじめに⇒議論A/議論B/議論C/議論D⇒おわりに。

基本的に、私は(1)のパターンをお勧めします。(1)は、4つの議論が適切な論理の流れ(議論1⇒議論2⇒議論3⇒議論4)にしたがって展開されているモデルです。これに対して、(2)は、4つの関連の薄い議論が並列的にならべられている(議論A/議論B/議論C/議論D)モデルです。そして、最後に一気に「おわりに」にもっていきます。

(2)の場合でも、個々の議論は「おわりに」(結論)と関係があるでしょう。しかし、「論文」としてみた場合には、(2)は(1)よりも劣ると思います。卒業論文に関連させれば、結論を導くために書かれた、第1章から第4章までの4つの章が独立しすぎているとすれば、どうでしょう。あまり説得力がないでしょう。

評価する側の好みもありますが、おそらく「論文」としてみた場合には、多くの査読者は(1)を良しとするはずです。

 

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得票数トップの「人魚姫のストーカー性における幸せ」

得票数トップ(9票)は渡辺里沙さんの「人魚姫のストーカー性における幸せ」でした。おめでとう! もう学生間での評価は高いので、私の視点から、厳しいことのみ述べることにします。

著者は「『人魚姫』という物語は一見、切ない物語のように思われる」と述べていますから、意識的に新解釈を提示したのでしょう。私は「純粋に王子を愛しながらも、報われることのなかった哀しい人魚姫の物語には、生涯を独身で通さなければならなかったアンデルセンの思いが色濃く投影されている」という解釈は聞いたことがあります。しかし、現代社会の問題である「ストーカー」と『人魚姫』を結びつけるという発想は浮かびませんでした。

ここに、最多票を獲得した理由があると思います。上のようなありきたりの解釈とはまったく違う、この論文の解釈が目をひきます。他にも「幸せ」との関連で、「あえて王子様の内縁の妻という地位を狙ったのではないか」などというところもギクッとしました(笑)。それゆえ、選考基準の「着眼点、しっかりした自分の意見の有無」などの点からは、評価できます。また、「はじめに」と「おわりに」が一貫性を保っていることも、評価できます。

しかし、「議論の論理的な展開、議論の説得性」などの点では、「難あり」です。論文の要である「Ⅱ:人魚姫のストーカー性」の後半部分を取り上げましょう。著者は「〈人間になること〉も執着心の1つに含まれていると考えられる」と述べています。その直後には「王子様への好意だけしかなかったら、祖母に〈王子様と結婚したい〉と言ったはずだ」とも述べています。問題は、この2つを切り離していることです。私は、人魚姫には「王子様と結婚したい⇒それには、人間にならないといけない⇒だから、人間になりたい」という自然な推論があり、「人間になること」に執着したのだと解釈します。そうすれば、上の2つの事柄を切り離して考える必要はないでしょう。もしくは、このように解釈する私のような人間に、説得的な説明を挿入すべきでした。

この後に、人魚姫の行動を王子の視点から見ています。人魚姫の視点とは異なる王子の視点に着目したのはいいのですが、残念ながら、彼の心情は物語の中にはおそらく書かれていないのでしょう。それで、「…はずだ」「…かもしれない」「…可能性も高いだろう」という蓋然性を頼りに、王子の心中を推測しています。とりわけ、論文の核心については説得力のある論証をしなければなりませんが、「これではやや弱い」と言わざるをえません。

その直後に、この論文の眼目である一文、「以上から考えると、人魚姫は十分にストーカー性を帯びていると言える」という文が来ます。

私が言いたいことは、「非常にユニークな視点からの議論を展開したのは素晴らしいけれども、その論証の仕方が甘い」ということです。ユニークは視点というのは往々にして、論証が難しいと思います。だからこそ、価値があるのです。新解釈は、説得的な論拠を挙げて水も漏らさぬ緊密な論理の展開でなされることによって、初めて素晴らしいものとなるのです。このことを、皆さんも覚えておいてください。

また細かいことですが、「王子様」という表現で一括されていますが、それは人魚姫からみた呼び方であり、客観的な立場にたつ著者ならば、突き放して「王子」という表現を使った方がいいかもしれません。つまり、「王子様」と「王子」を使い分けるということです。

 

金賞について

上記の審査基準に基づいて、最優秀としたのは、家本若葉さんの「映画『ジュマンジ』における大人と子どもの相対性」です。理由は、くり返しになりますが、もろもろの審査基準を総合した結果です。

この論文は「大人と子どもについて」に分類されるもので、対立項の関係を問題にしている論文です。論点は「大人と子どもは極めて相対的な存在として描かれている」という平凡なものです。それでは、どこにオリジナリティがあるのでしょうか。それは、相対的な大人‐子どもという関係のなかで、その相対性を、年齢に関係なく「大人=親」「子ども=子ども」という関係で捉えたところにあります。著者自身の言葉では「この作品における〈精神的な区分の大人と子ども〉の大部分が〈親と子〉という概念によって作られている点にある」ということになります。

 

佳作について

 金賞を受賞した論文をふくめて、2票以上得票した論文は、どれも甲乙つけがたい接戦でした。審査委員として、大変悩みましたが、銀賞と銅賞は「該当者なし」で、以下の9編を「佳作」とします(敬称略)。一言だけコメントしておきます。

                           †

★松田絵里菜「『アンパンマン』にみる正義の相対性」: 明快で分かりやすいね。

木戸内佳乃「『もののけ姫』における悪」: 最後の結論を工夫すれば、さらによかったね。

松尾なずな「大人になるための魔女修行」: 文章はいいけれど、論文としては弱いかな。

脇田麻菜美「子どもから大人への通過儀礼」: 明快で分かりやすいね。

滝沢瞳「『ピノキオ』が描く子どもの姿」: あなた自身も、子どもと接するときに考えないとね。

中川千佳「『ソラニン』におけるメガネ男子の存在意義」: ものすごいメガネへの執着だね。

関口春香「宗教は不幸か~『赤毛のアン』と現代の日本」: 日本宗教の理解が、一面的かもしれないね。

渡辺里沙「人魚姫のストーカー性における幸せ」: 上記のコメントのとおり。

 

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おわりに

今回の星川賞については、以上です。

また来年も、素晴らしい論文集『私たちのカルスタ』が出来上がることを楽しみにしています。

最後に、論文集に投稿して私を楽しませてくれた(選考で苦しませてもくれたけど…)カルスタの学生さん、企画委員や運営委員の人たちにも、教員を代表して御礼を述べて、終わりとしたいと思います。ありがとう!

 

※表彰式は、5月になって、全員集まれる時間帯におこなう予定です。

 

星川啓慈


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