学部・大学院

「学び」と「実践」を通じた人材育成

宗学コース

特別企画「学びの探索 教員版」第13回 阿部貴子先生(真言宗智山派)

公式Facebookページ開設を記念して、学科教員の研究の紹介や教員になった経緯などを紹介する企画です。
大学HPの教員紹介よりも一歩踏み込んだ内容となっております。
高校までには居なかった、専門分野において突出した知識や経験を持つ仏教学科の先生たちを余すことなく紹介します。

第13回は宗学コースの阿部貴子先生です。
📜📜 仏教の勉強は楽しい 📜📜

📕逃避行のつもりが?📕
私が仏教と出会ったのはチベットでのことです。サラリーマン家庭に生まれて、お寺の横を通りすぎることはあっても、それは風景の一部という印象しかありませんでした。転機は大学卒業後のこと。出版社に入社して2年目、漫画雑誌の編集をして忙しくもそこそこ楽しく過ごしておりました。「自分も手塚治虫みたいにビッグな漫画家を育てるんだー」と意気込んでいたのも束の間、何となく自分の職業とは違うような気がしてきました。そんなとき、思いついたのがチベット旅行。理由は?東京の喧騒からの逃避行というただそれだけです。でもそこで、独特な音色の声明や、金色で怖そうな仏像の異質さ、そして強烈な信仰心を持った人々の姿を目の当たりにして「何なんだ、この世界は?」と晴天の霹靂でした。

📕大正大学入学とお坊さんの世界📕
その後、仏教を知ろうとチベット語を学び、一念発起して4年間で会社を辞めて大正大学の修士課程に入りました。入学して思ったのは「とんでもないところに来た」ということ。周囲はみなお坊さんで、皆の会話もシラバスの内容も全く理解できません。しかし、そんな私を先生も友人も温かく迎え入れてくれました。その後、天性の図々しさと、師僧の吉田宏晢先生や様々な人との出会いによって、真言宗智山派の僧侶になることができました。法衣の畳み方どころかオーダーの仕方も知りませんでしたが、四度加行を修め、灌頂という儀式を受けて、僧侶(教師)の資格を得ることができました。

📕修士過程での勉強📕
私が研究として関心を持ったテーマは、大胆に言えば人の心についてです。最初はインドやチベットの密教を研究するつもりでしたが、その源流である大乗仏教の唯識思想に興味を持ちました。世の中のすべての物ごとは心の働きによって現れるという思想です。そして修士論文では、無着と世親が書いた『大乗荘厳経論』を研究することにしました。ここで立ちはだかった壁が、難解なサンスクリット語。唯識を専門としていた廣澤隆之先生や、当時の梵文学研究室の先輩や先生方を捕まえては、ほとんどの時間を語学の勉強に費やしていたと思います。サンスクリット語…今でも奮闘していますが、すんなり読めると楽しくてつい時間を忘れてしまいます。

📕インドのバッグパッカー旅行とカナダ時代📕
とはいえ勉強を離れたいこともしばしば。博士過程のときには、インドで一ヶ月の放浪旅をしました。ふつうインドに行くお坊さんや仏教学者は仏跡を巡って仏像や彫刻を観察するのでしょうが、私の関心はどちらかというと「人」にありました。出会ったインド人やチベット人と仲良くなり自宅で家庭料理を頂いたり、劇場でインド映画や舞台鑑賞したりもしました。そんななかで人々に染み付いている、インド人感覚みたいなものを嗅ぎ取ることができたのではと思っています。
博士課程といえば、一年間をカナダのカルガリー大学宗教学科でリサーチャーとして過ごしました。この間に教授から指導を受けて研究を進めなければなりませんが、ここでも現地生活を堪能してしまいました。文献読みは日本でもできるけれど、移民大国カナダにいるなら移民たちの仏教を見ようと、たくさんの寺院やセンターの行事に参加しました。台湾の寺院の法要に参加したり、ヴィパッサナー合宿で坐禅をしたり、チベット移民の集会で一緒にチャンティング(読経)したり。変な日本人だと思われたでしょうね。

📕現在の研究📕
現在では主に4〜5世紀頃に成立した唯識思想の文献『瑜伽師地論』を研究しています。当時の修行方法や思想、ヨーガによって修行者の身心にどのような変化がおこるのかについて論文を発表しております。さらに、真言宗智山派の僧侶として、密教文献やその背景となった経典や思想などに関心の幅を広げております。日々学生さんと一緒に勉強して、よい刺激をもらっております。

阿部先生の経歴やご専門についてもっと詳しく知りたい方は、以下のリンクをご覧ください。
https://researchmap.jp/ta_abe

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