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宗教学専攻

大正大学宗教学会2014年度春期大会が行われました

 6月27日(金)、本学5号館3階532教室にて、大正大学宗教学会2014年度春期大会が開催されました。本大会では、寺田喜朗先生(大正大学准教授)司会のもと、『慰霊の系譜―死者を記憶する共同体―』(森話社、2013年)の書評会をおこないました。評者は、金律里さん(東京大学大学院博士後期課程)と小林惇道さん(大正大学大学院博士後期課程)でした。また、両評者の書評に対して、本書の編者である村上興匡先生(大正大学教授)と西村明先生(東京大学大学院准教授)がリプライをしました。


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編者の村上先生と西村先生、司会の寺田先生

 

 書評会を始めるにあたって、まずは編者の二人から本書刊行の経緯について説明がありました。本書は、故孝本貢先生(明治大学教授)が研究代表者だった「戦争の記憶の創出と変容―地域社会における戦争死者慰霊祭祀の変遷と現状―」(科学研究費基盤研究(B) 2007~2009年度)の共同研究を基盤とし、その後さまざまな共同研究を経た上で編まれたとのことでした。

 次に、2人の評者から本書に対するコメントがあげられました。
小林さんからは主に3点コメントがありました。一つ目は、明治期に地域社会のために殉職した警官の死の意味について、当初は現世利益的なプライベートな信仰の対象とされていたが、時が下るにつれてその道徳的意義をたたえるパブリックな顕彰の対象へと移り変わっていったと捉える評者の理解に対して、著者にその妥当性を質問するものでした。

 二つ目は、本書で「戦争死者」として一括りにされていることに対して、慰霊の比較研究を行う際には、主に戦闘での死者を指す戦没者と空襲などで犠牲となった戦災死者を意識的に使い分けて考えていくことが求められるのではないか、と提起するものでした。
さらに三つ目は、「慰霊」と「追悼」の用語に関して、小林さん自身の修士論文(「現代における戦争犠牲者の慰霊・追悼―小集団の事例から―」(2011年提出))を参照しつつ、現代社会においては、直接的に知る死者を対象とする慰霊から、共同体によって営まれる追悼への流れとして捉えることが可能かについての質問でした。

 これに対し西村先生からは、本書の事例となる近代地域社会の慰霊においては、プライベートからパブリックというよりも、地域を限定したローカルなものからより広範囲なオフィシャルなものへの変容として捉える方がのぞましいとのリプライがありました。また、戦没者と戦災死者に関して、その両者にははっきりと分けることが難しい場面もあり、そうした多様性を具体的な事例を基に示すことが必要だとの回答がありました。一方で村上先生からは、「慰霊」、「追悼」の用語は研究者の間でも定義が完全には共有されておらず、こうしたことも考えながら議論を行っていくことが求められるとの答えがありました。

 続いて、金さんからは大きく2点コメントがありました。一つ目は、災害死者への慰霊祭が時間を経過するにつれて過去志向から未来志向へと変容していくとした記述に対して、当初からその両者は共存しているとともに、時を経ても追体験としての過去は未来志向と併存した状況があるのではないかとの疑問があげられました。
 二つ目は、慰霊研究がなされる際に大きく問題となる靖国神社に代表される国家レベルに関わる記述が本書に無いことについての問いかけがありました。

 これに対して西村先生からは、過去の追体験がなされる場合には死者の個性は消えていくという意味で抽象化された未来志向といえる状況であること、国家レベルの記述がないことについては戦略的でもあり、家と国家の中間レベルとして地域レベルを本書は対象としているとのリプライがありました。
 村上先生からは、近世の藩での主君が家臣を慰霊する行為が近代の靖国の原型として捉えることもでき、国家レベルとの関わりはそうした点にも見いだされるとの答えがありました。

 なお、金さんからは、「慰霊」や「追悼」という用語に対して、ご自身の出身地である韓国では上記2つの用語の他、「追慕」という言葉も多く使用され、これらの言葉は宗教団体によって使い分けられていることが紹介されました。

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書評者の小林さんと金さん

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当日は、多くの方々にご来場いただきました

 その後、質疑応答の時間が設けられ、多くの方々より質問があがりました。そのなかで、本書の著者の一人である土居浩先生(ものつくり大学准教授)が、慰霊研究というジャンルがあると認識している人がどれだけいるのか会場にアンケートをとる場面もありました。その結果、会場のほとんどの人が認識していることが判明し、慰霊研究が宗教研究において新しい分野として確立されつつあり、かつ研究者の強い関心を惹くものであることが共有されました。このほかにも多くの議論が交わされ、白熱した雰囲気のまま大会は終了となりました。

 修士課程1年の私は、今回初めて大正大学宗教学会の大会に参加しました。「慰霊」というテーマに対して実に多様な意見が、それぞれの専門分野の見地から述べられ、相乗効果のように議論が深まっていく様子はとても新鮮に感じられました。なぜなら、自らの芯となる研究分野を持っていれば、議論のテーマを自らの専門に引き寄せて有意義な意見を発することができるということに思い当たったからです。これから研究を始めていく私たち院生にとって今回の大会は、「学問とはなにか」「議論とはなにか」「専門とは何か」を知ることができた貴重な機会でした。
 

(文責・小野澤真暁)

(この記事は、大正大学宗教学会のホームページの内容を掲載しております)

大正大学宗教学会HP http://www.taisho-shukyogakkai.net/