学部・大学院

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宗教学専攻

星川先生の共著本が出版されました

 この度、大正大学宗教学会理事で、大正大学文学部教授の星川啓慈先生が、桃山学院大学社会学部准教授の石川明人先生とともに、『人はなぜ平和を祈りながら戦うのか?―私たちの戦争と宗教―』(並木書房、2014年4月)を出版されました。簡単な書評と紹介を書かせていただきましたので、みなさんご覧下さい。

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星川啓慈・石川明人著『人はなぜ平和を祈りながら戦うのか?―私たちの戦争と宗教―』を読んで

 本を開くとまず目に入る「まえがき」に、石川明人先生が以下のように書かれています。

 

本書は「戦争」と「宗教」についてさまざまな角度から考えることを目指して、大学生や一般読者向けに企画されました。(中略)『人はなぜ平和を祈りながら戦うのか?』としました。ただし、タイトルがこうであるからといって、本書の最後で、その「なぜ」に対して明確な答えを提示しているわけではありません。(pp. 3-4)

 

 一瞬「えっ?」と思いますが、これは当たり前のことでしょう。むしろそれだけの難問であり、これからも多くの人が考え続けるべき問題であるからこそ、学生や一般の方向けに、このような本が著されたと解するべきだと思います。以下では簡単に本書の内容について触れながら、少しだけ読後感を記したいと思います。

 

 まず序章では戦争の歴史について主にヨーロッパを中心に、いくつかの時代に区切ってその変遷が論じられています。そして宗教が戦争の唯一の原因ではないが、戦争や武力衝突を推し進めたり、正当化したりする側面が指摘されます。

 

 第1章から第4章までは、「Ⅰ 戦争の現実」と銘打たれています。第1,2章では「人は人を殺したがるのかどうか」という大問題について、主に2人の軍事研究家、グロスマンとクレフェルトによる対立する見解を中心にして学説が整理され、残念ながら「戦争がなくなるのは難しいのではないか」と結ばれます。

 続いて第3,4章では戦争と人の内面、すなわち戦争時の生理的・心理的反応と、戦争と宗教との関係について書かれています。特にハンチントンやユルゲンスマイヤーらが引用されながら論じられる第4章は、宗教研究をかじってきた自分にもなじみ深い議論が展開されており、宗教について考えたい人にとっては必読の章といえます。

 

 第5章から第10章までは、「Ⅱ 戦いの中の矛盾」となっており、主にキリスト教の立場からの、戦争に関するさまざまな立場が提示されていきます。

 第5,6章では、主に聖書などの言葉を後世の人たちはどのように解釈し、主戦論or非戦論どちらかの立場を構築してきたかが判明します。

 第7章では、軍事大国にしてキリスト教が確固たる立場を築いているアメリカの宗教的事情を俯瞰しながら、戦争と宗教の関係に迫っていきます。第8章は日本におけるキリスト教徒と戦争の関係について論じられます。全体主義に動員されていく人々の様子や、逆に心の奥底からの悔恨が個人をキリスト教に導く例などがあり、戦争と信仰のあり方の多様性が見てとれるようになっています。

 宗教的動機が激しい非人道的な行為に結びついてしまった「十字軍」「魔女狩り」「三十年戦争」といった事例が語られる第9章、また戦争時に兵士を宗教的に支える、ある意味非常に矛盾した存在とも捉えうる「従軍チャプレン」ら戦場の聖職者たちの献身が語られる第10章も、非常に考えさせられる章となっています。

 

 第11章から第14章までは、「Ⅲ 平和への葛藤」とされています。第11章では「冷戦期以降の新しい『戦争』において、実は第二次大戦以上の犠牲者が生まれてしまっている」という衝撃の事実からその「新しい戦争」の一形態である「テロリズム」などにまつわる話題が展開されます。

 第12章ではボンヘッファーや安重根といった人物を通じて、暴力や殺人が文脈によって肯定的にも否定的にも受け取られる事実が確認されます。第13章では、韓国・日本・ドイツなどの事例から兵役拒否と宗教や信仰との関わりが述べられています。そして掉尾を飾る第14章では、世界宗教者平和会議など、諸宗教による平和運動の諸相が紹介されています。

 

 本書はあくまで宗教と戦争をめぐる議論を網羅するものではありません。おそらくそれは一冊の本にて可能なことではありません。しかし、「あとがき」にて、星川先生は以下のように書かれています。

 

あらゆる戦史や宗教文化に言及することはできませんでした。けれども、「重要な問題をシャープに抉りだして見せた」という自負がないわけでもありません。(p. 238)

 

 確かに問題系全体を完全に把捉することはできなくても、本書は宗教と戦争に関わる本質的かつ重要な論点の多くを網羅し、それらの論点は整理されて論じられています。そして、非常に読みやすく、理解がしやすく書かれています。また、宗教学・宗教哲学の重要なトピックが至る所にちりばめられており、駆け出しの研究者としてはそれを咀嚼しながら精読することに楽しみを覚えました。結果として本書によって、門外漢である私も非常に多くの示唆を得ることができました。

 初学者向けのファーザー・リーディングス(次の一冊)のリストなどがあれば良いなあ、とも思いましたが、それは本書の価値を貶めるものではありません。

 本書がスタート地点となって、多くの学生や一般の読者が宗教と戦争に興味を持ってくれること、そして特に学生はこの本を踏まえた上で、さらに議論を切り開くことこそ、両先生が心から望んでいることだと思われます。

 ぜひ手にとって読まれることをおすすめしたいと思います。

(文責・星野壮:本学非常勤講師)

 

(この記事は、大正大学宗教学会のホームページの内容を掲載しております)

大正大学宗教学会HP http://www.taisho-shukyogakkai.net/